月曜日
長いゴールデンウィークは終わり、今日から通常時制に入る。
いつも通りに学校があっていつも通りに部活がある今日。
私は黒尾にちゃんと謝る。
本当は喧嘩した次の日に謝るつもりだった。
宮城から東京に帰る朝一番の高速バスで東京の自宅に帰宅して、さぁ謝りに行こう。と思った途端、父が風邪を引いてダウンした。
高熱という事もありつきっきりで看病していたので謝りに行くどころではなかった。
だから、今日だ。
喧嘩した日から3日が経っているが、まったく私達は通話やチャットをしていない。
とてもじゃないが喧嘩している中、自らトークや通話をしようなんて言えるほど勇気はなかった。
本来は登下校は黒尾と一緒で、いつも家まで迎えにきてくれる。
が、やり取りをしていないので迎えにすら来てない。
「はぁ……」
と、休み時間で教室中が賑わっている中私は窓の外を見ながらため息をついた。
同じクラスに彼氏がいて、喧嘩した場合。
こういう時が困るんだ。
気まずくても嫌でも同じ空間に居なければならない。
いつも一緒にいて当たり前の私達が、今日は一緒にいないので周りの子達も不思議に思うらしく。
女子達からの質問攻め、男子達からはからかわれる。
一人でいたいのに煩くて本当にめんどくさい。
それに、興味津々で聞いてきたりまだ別れてないのに慰めてくる周りのヤツらを見て正直腹が立つ。
……黒尾が別れる気でも、こっちはそんな気ないから。
なんて心の中ではそう思っている。
が、
黒尾鉄朗
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たった一言送られてきただけで、
その伝えたいことが別れ話だったらどうしようと焦る自分もいる。
……大丈夫、別れ話じゃないから。
元の生活に戻れるから。
と、とにかく言い聞かせる。
不安な時にネガティブ思考になればなるほど不安になるということは随分前から身をもって知っている。
「あなたー!次移動教室だよー?」
「何ぼーっとしてるの?さっさと行くよ!」
「あ、はーい!!」
廊下にいる友人に声をかけられ慌てて引き出しの中から教科書と筆箱を取り出す。
「あ、ちょっと待って!!」
私を置いて先に行ってしまう友達。
小走りで友達の元に向っている時、黒尾とすれ違った。
ふんわりと香る黒尾の匂い。
今から6時間後。
私達はどうなっているのだろうか。
期待と不安を胸に私は時間が経つのを待っていた。
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放課後
時間というものはあっという間に経つもので。
久しぶりの色んな意味でキツかった学校は終わり、部活。
その部活もあっという間に終わった。
「あれ、まだ居たのか?」
更衣室に向かう途中やっくんに声をかけられた。
下校時間を過ぎているというのに、まだ練習着のやっくん。
きっとリエーフと残って練習していたのだろう。
「スコア表のコピーとかしていたらちょっと時間かかっちゃって。」
夜「そういえばコーチから言われていたな。」
そう、この前の練習試合の記録を全員に配るためコピーして欲しいと言われ今日はコピーして閉じる作業に付きっきりだった。
「やっくんも自主練中?」
夜「まーな。」
「リエーフと?」
夜「ああ、レシーブ練だ。」
「はは、頑張ってね。」
夜「それはお前もだろ。」
呆れるように言うやっくん。
夜「黒尾から聞いた。
今から会うんだろ?」
「……うん。」
夜「別れるか別れないかは別として、ちゃんと気持ち伝えてこい!」
「!」
パンっと私の背中を叩くやっくん。
「ちょっと、痛い。
結構強めに叩いたよね。」
夜「痛いぐらい叩かないと意味ないだろ。」
「……女に優しくない。」
夜「……え、女?どこ?」
「やっくん!!!」
女に対して酷いやっくんも。
友達思いのやっくんも。
私は好きだなぁ。
やっくんと友達でよかった。
「じゃ、また明日ね。」
夜「おう。」
私は校舎の方へ、やっくんは体育館に向かって歩く。
正直この一歩一歩が辛い。
だけどやっくんの言う通りだ。
結果はどうなれ私は黒尾にちゃんと言う。
今私が思っている事を。
これからの事を。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!