黒「さー、さっさと研磨探すぞ。」
「探すのはいいけど、どう探すのよ。」
槻木澤高校から一旦出て、駅の方へ再び歩いて行く。
確実に駅までは一緒にいたので、駅から槻木澤高校の間で研磨は迷子になった。
黒「あと30分以内で探せって結構無理だろ。」
「確かに、コーチ厳しすぎるね。」
黒「ほんとそうだよな。
なぁあなた、既読ついた?」
「いいや、全く。」
何度もメッセージを送っても返事はない。
研磨は一体何をしているんだ。
既読すらつかない状態で探すのは無理ではないだろうか。
黒尾と裏地に繋がる細い道や、反対側の歩道、色々なところを見回る。
天気は快晴。
日光が身体にあたり歩いていると暑くなる。
日頃、体育の授業でしか激しい運動しない私にとって日光は体力を削っていく素。
疲れたからと言ってゆっくり歩きたいが、今はそんな事を言っている場合ではない。
研磨が居そうにないからか、だんだんとお互いの口数も減ってくる。
終いには沈黙が流れる。
暑い。
いない。
暑い。
いない。
その2つの単語が脳内で何度も再生される。
そんな中、黒尾が口を開いた。
黒「なぁ突然だけど変な事言っていい?」
「…え、ダメ。」
黒「あなたに拒否権は無いので言いまース。」
「聞きまセーン。」
黒「なんか、俺達デートしてるみたいだな。」
「はーい、聞こえませんデシター。」
わざと手で両耳を抑え、聞こえなかったフリをする。
何故なら照れくさかったからだ。
東京の学校のジャージを着て、宮城の都会でもなんでもない場所を2人並んで歩く。
他人から見ても明らかに “こいつら付き合っているだろ。”と分かる雰囲気だ。
黒「あれれ〜あなたチャン顔赤いけど〜?」
「あ、赤くないから!!」
そっぽを向いて黒尾に顔を見られないようにする。
黒尾が突然何を言い出すかと思えばこんな事。
カレカノらしい事をあまりしない私達にとっては、私にとっては何故か嬉しいと思った。
まぁ絶対に本人に直接言わないが。
こう言う些細なことで幸せを感じる自分は相当、黒尾に溺れているのだと感じさせられ、どんどん溺れていく自分が恐ろしく、怖い。
黒「あなた〜こっち向けって。」
「嫌よ、絶対嫌だから!」
黒「可愛いあなた拝まねーと。」
「何バカ言ってんの!?
さっさと研磨探すよ!」
真っ赤になっているだろう顔を隠すために背後に回り、黒尾の背中を押す。
“疲れた。”
という数分前の事なんて忘れた。
今は体力温存よりも顔を見られないようにするので精一杯だ。
黒「なぁ、あれ研磨じゃね?」
黒尾の背中を押し続けていると突然、黒尾の足が止まる。
ゴツンっと激しく顔面を背中にぶつけた。
「ちょっと、突然止まらないで。
鼻痛い。」
黒「ほら。」
鼻を両手で抑えながら黒尾が指を指した方向を見る。
そこにはコンクリートブロックに座っている研磨の姿ともう1人、オレンジ色の髪の色をした男の子がいた。
「赤のジャージであのプリンヘッドは……
研磨しか居ないよ。」
黒「だよな、確実に研磨だ。」
「で、もう1人は誰?」
黒「体操服の男の子。」
「それは見たら分かる。」
オレンジの髪の男の子は研磨と同じぐらいの身長で、体操服を着ているあたりから地元の人なんだと思った。
「あのさ黒尾、思ったことがあるんだけど。」
黒「偶然だな、俺もだ。」
「あ、あの研磨が…」
「「知らない人と喋ってる!?」」
お互いに顔を見合わせて驚く。
人と関わるのが苦手な研磨が、知らない人と喋ってる所を私は初めて見た。
あの研磨が……あの研磨が……!
黒「研磨!」
黒尾が研磨を呼ぶ。
名前を呼ばれた研磨はもちろん、研磨と一緒にいたオレンジの髪の色をした男の子もこちらを向いた。
スマホを取りだし、ロック画面を見る。
時間は試合開始まで残り15分をさしていた。
研「クロとあなただ。」
「研磨、急ぐよー!」
研「またね翔陽。」
研磨はバックをしっかり肩にかけ男の子に手を振った。
黒「勝手に迷子になるな。」
「未読スルーやめて。」
研「ごめん。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。