こっちの世界では、放課後になったら即帰宅がルール。
だけど、すでに外は真っ暗で。
ママが帰る時間すら、とっくに過ぎている。
ドキドキしながら、家の玄関のドアを開ける。
鏡の世界のママの甘さに慣れていたから、ちょっと怖いけど。
まずはじめに心配をされるとは思わず、面食らってしまう。
ママは、悲しそうな顔で私の頭を撫でた。
その声は、鏡の世界でママに聞いたものと同じで。
だけどやっぱり、違う人で。
*
次の日に学校に行くと、昇降口で三条くんに出会った。
鏡の世界でも、同じことがあった。
懐かしくて、……恋しくて。
涙が出そう。
*
教室の扉が、開けやすい。
教室に入ると、すぐにレナ、ナナミ、ミカと顔を合わせた。
こっちの世界の、三人。
ごくりと、喉を鳴らす。
三条くんが、私の背中に手を当てる。
私が、一歩を踏み出すと。
明らかに怯えている三人に、意味が分からなくて三条くんを見る。
なんか、分かってしまった。
私は、ナナミが差し出してくるペットボトルを、せっかくなので頂いてみる。
変な感じ。
受け取ったばかりの透明な桃のジュースと、自分の席にかばんを置く。
そして。
自分の席でひとり、本を読んでいる松川さんに話しかけた。
笑った顔は、やっぱり鏡の紗奈にそっくり。
ホッとして、さっきまでの緊張がなくなる。
*
一時間目の授業が始まり、先生が黒板に書いた文字に感動して、つい言葉をもらしてしまう。
先生に注意をされてしまい、ふたりで顔を見合せて笑う。
三条くんと、こうやって話をしているのが、本当に不思議。
先ほどよりも抑えた声量で、三条くんが私の名前を呼ぶ。
三条くんの机の右上に置いた、ココア。
終わったはずの、再びはじまる放課後の時間。
『あっちの俺もきっと、新田のことが好きだよ』
はじまるのは、新しい放課後……だけじゃないかもしれない。
その先の未来を予感して、私は口元を隠して笑った。

















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。