第9話

全てが真逆の世界で
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2026/03/18 02:00 更新
学校での一日が、ものすごく長く感じた。
新田 桃音
新田 桃音
(やっと放課後だ……)
帰りのホームルームが終わって、誰にも声をかけられないように、三条くんにだけ短くあいさつをして、私は急いで教室を出た。
新田 桃音
新田 桃音
はぁ……
朝はそれどころじゃなかったけど、今は少しだけ落ち着いたぶん、まわりを見回す余裕が出てきた。
新田 桃音
新田 桃音
(風が気持ちいいな)
左右が逆になった、見慣れた街並み。
それでも、お店の看板、ベンチに座っている人が読んでいる本の表紙、自動販売機。
全部が、鏡文字。
新田 桃音
新田 桃音
(知っているはずの、知らない世界……)
新田 桃音
新田 桃音
(不思議)
自動販売機が気になって、近づく。
『あったか~い』も『つめた~い』も、鏡文字。
中の飲み物も、全部。
新田 桃音
新田 桃音
(一個買ってみようかな)
バッグから財布を取り出す。
こっちの私の財布だから、小銭もお札も全て鏡文字。
新田 桃音
新田 桃音
(でも、デザインは私が知ってるのと同じだ)
自動販売機は、小銭やお札を入れるところが左側にある。
新田 桃音
新田 桃音
(あ、これ、右手だとやりづらいな)
新田 桃音
新田 桃音
(元の世界での左利きの人も、こんな気持ちなのかも)
家に帰って、一応「ただいま」を言うけど、誰もいない。
自宅のドアノブも、もちろん逆。
新田 桃音
新田 桃音
(こっちのママも、仕事はいつも遅いのかな)
新田 桃音
新田 桃音
(……ご飯、作ろ)
昨日のママが頭によみがえって、ちょっと憂鬱ゆううつな気持ち。
制服を着替えて、キッチンへ。
新田 桃音
新田 桃音
(うわ、冷蔵庫も持ち手が逆)
新田 桃音
新田 桃音
(げっ。包丁、切れない。包丁にも、利き手用ってあるんだな)
新田 桃音
新田 桃音
(じゃあキッチンバサミ)
新田 桃音
新田 桃音
(……も、だめ。左利き用)
なんて、やっている内に。
ママ
ママ
ただいま~。桃音ちゃん、もう帰ってる?
新田 桃音
新田 桃音
(もう帰ってきた。こっちのママは早いんだ)
新田 桃音
新田 桃音
うん、帰ってるよ
声だけで、機嫌がいいのが分かる。
それだけで、なんだか安心してしまう。
ママ
ママ
今日のご飯、何にしよっかぁ? ハンバーグに使ったひき肉、まだ残ってたかなぁ
ママが歩きながら喋って、私がいるキッチンにやって来る。
ママ
ママ
あら? 桃音ちゃん、そんなところで……
ママ
ママ
えっ!? まさか、桃音ちゃん、お料理しようとしてる!?
新田 桃音
新田 桃音
(めちゃくちゃ驚いてる……。なんで?)
新田 桃音
新田 桃音
う、うん、ママ、帰り遅いのかなって思ったから
ママ
ママ
うそ~。やだ、いい子~!
新田 桃音
新田 桃音
!!
料理をしようとしただけで、感激したママに抱きしめられて、言葉を失う。
新田 桃音
新田 桃音
(こんなこと、初めて)
胸に、じわっと熱いものが広がる。
ママ
ママ
いいのよ、桃音ちゃん。頑張ってくれるのは嬉しいけど、子どもはそんなこと気にしなくていいんだからね
私が知ってる、ママの声。
だけど、私が知らないママの言葉。
私が欲しかった、ママの……。
ママ
ママ
でも、カップラーメンも失敗しちゃう桃音ちゃんが、挑戦しようとしてくれて、ママ嬉しいっ
新田 桃音
新田 桃音
(カップラーメンを失敗)
新田 桃音
新田 桃音
(とは、一体)
ママ
ママ
せっかくだから、一緒に作りましょうか? ね?
新田 桃音
新田 桃音
うん……!
新田 桃音
新田 桃音
あのね、お弁当もおいしかった
ママ
ママ
ふふ、直接言われると、照れちゃう
新田 桃音
新田 桃音
(可愛い……)
新田 桃音
新田 桃音
(ママとちゃんと会話をするの、久しぶり)
新田 桃音
新田 桃音
(楽しい)
新田 桃音
新田 桃音
(嬉しいな……)

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