学校での一日が、ものすごく長く感じた。
帰りのホームルームが終わって、誰にも声をかけられないように、三条くんにだけ短くあいさつをして、私は急いで教室を出た。
朝はそれどころじゃなかったけど、今は少しだけ落ち着いたぶん、まわりを見回す余裕が出てきた。
左右が逆になった、見慣れた街並み。
それでも、お店の看板、ベンチに座っている人が読んでいる本の表紙、自動販売機。
全部が、鏡文字。
自動販売機が気になって、近づく。
『あったか~い』も『つめた~い』も、鏡文字。
中の飲み物も、全部。
バッグから財布を取り出す。
こっちの私の財布だから、小銭もお札も全て鏡文字。
自動販売機は、小銭やお札を入れるところが左側にある。
*
家に帰って、一応「ただいま」を言うけど、誰もいない。
自宅のドアノブも、もちろん逆。
昨日のママが頭によみがえって、ちょっと憂鬱な気持ち。
制服を着替えて、キッチンへ。
なんて、やっている内に。
声だけで、機嫌がいいのが分かる。
それだけで、なんだか安心してしまう。
ママが歩きながら喋って、私がいるキッチンにやって来る。
料理をしようとしただけで、感激したママに抱きしめられて、言葉を失う。
胸に、じわっと熱いものが広がる。
私が知ってる、ママの声。
だけど、私が知らないママの言葉。
私が欲しかった、ママの……。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。