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第12話

元の自分でいられる場所
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2026/04/08 02:00 更新
新田 桃音
新田 桃音
ただいま
紗奈と本屋に寄ってから帰宅すると、ママはまだ帰っていなかった。
新田 桃音
新田 桃音
(そうだ、スーパーで買い物してから帰るって、朝言ってたな)
元の世界なら、食材や日用品の買い物も、私の役目だった。
平日の仕事で疲れているママは、土日は出かけようとしなかったし。
新田 桃音
新田 桃音
(友達と放課後に遊べて、家事にも追われない)
新田 桃音
新田 桃音
(こっちの私、うらやましいな……)
こっちのママはほとんど毎日、仕事を定時で終わらせてくる。
さりげなく会社の名前を聞いた時は、元の世界のママと同じ会社だった。
新田 桃音
新田 桃音
(同じ会社でも、元の世界はブラック企業で、こっちはホワイト企業ってことだったり?)
ママが帰ってくるまでお風呂の準備をしようと、制服を着替える。
朝にした洗濯物を取り込んだ、その時。
ママ
ママ
ただいまぁ~。桃音ちゃん、帰ってる?
新田 桃音
新田 桃音
あっ、ママ。うん、帰ってるよ
小走りで玄関まで迎えに行くと、両手にエコバッグを提げたママが、ドアを開けづらそうにして入ってきたから、慌てて手伝う。

バッグには、スーパーで買った食材がぎっしり詰まっているのが見えた。
新田 桃音
新田 桃音
わ、すごい量。こんなに、何買ってきたの?
新田 桃音
新田 桃音
言ってくれれば、買い物手伝いに行ったのに
ママ
ママ
だって今日は、紗奈ちゃんと用事があったんでしょ?
新田 桃音
新田 桃音
(そっか、学校からスマホにメッセージ送ったんだっけ)
ママ
ママ
桃音ちゃんには、家のこと気にしないで遊んでほしいからね
新田 桃音
新田 桃音
ママ……
ジーンと、目の奥が熱くなる。
新田 桃音
新田 桃音
……これ、どこに片付けたらいい? 持ってく
泣きそうな顔を見られたくなくて、荷物を持ちながらママに背を向ける。
ママ
ママ
ありがとう。それは全部、キッチンにお願いね
ママ
ママ
桃音ちゃん、前から優しい子だったけど、最近さらに優しくなったわね
ママ
ママ
でも、何か無理してることは無い?
新田 桃音
新田 桃音
大丈夫だよ、心配しないで
新田 桃音
新田 桃音
……私、優しくなった?
ママ
ママ
うん。とってもいい子ね
新田 桃音
新田 桃音
そう……
新田 桃音
新田 桃音
(こっちのママは、毎日褒めてくれる)
こっちの世界での、学校での姿は、三条くんが教えてくれる。
だけど、さすがに家での様子は知るはずもないから、それは聞けるわけもなくて。
家でまでキャラを作るのは疲れてしまって、いつの間にか、ほとんど元の自分になってしまったけど。
新田 桃音
新田 桃音
(ママは、そんな私を普通に受け入れてくれるんだよね)
ママ
ママ
桃音ちゃん、毎日頑張ってくれてるから、じゃーんっ
ママ
ママ
ケーキ屋さんで、キャラメルバナナケーキ買ってきちゃった。一緒に食べましょう
ママ
ママ
桃音ちゃん、ケーキ屋さんに行くといつもこのケーキ選ぶでしょ?
ママが見せてくれたのは、見覚えのあるケーキ屋さんのロゴが入った白い箱。
元の世界にもある、ケーキ屋さん。
新田 桃音
新田 桃音
(でも……)
新田 桃音
新田 桃音
(ママとはケーキ屋さんになんて、もうずっと行ってない)
新田 桃音
新田 桃音
(そんなケーキがあることも、知らない)
新田 桃音
新田 桃音
(元の世界のママならきっと、私が好きなものなんて知らない)
ママ
ママ
あら? もしかして、もう好きじゃない?
ママ
ママ
先月は食べてたから、まだ好きだと思ったんだけど……。余計なことしちゃったかな
新田 桃音
新田 桃音
あっ、ううん!
新田 桃音
新田 桃音
ありがとう! 嬉しい!
ママ
ママ
よかった
箱を開けてみると、生チョコが乗っているキャラメル色のケーキがふたつ。断面にバナナが見える。
新田 桃音
新田 桃音
(おいしそう)
新田 桃音
新田 桃音
(こっちの私は、これが好きなんだ)
夕飯の後に、ママと食べたキャラメルバナナケーキは、すごくおいしかった。
三条 彬
三条 彬
『新田の好きなものは?』
三条くんの言葉を、思い出した。
新田 桃音
新田 桃音
(私って、何なんだろう)
新田 桃音
新田 桃音
(何が好きなんだろう)
新田 桃音
新田 桃音
(自分のことなのに……)

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