彼女と出会ったのは8年前の4月。
中学1年の時の仮入部だった。
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他に良い選択肢もなかったので、ぼくは吹奏楽部を選んだ。
音楽室に入ると、笑顔を貼りつけた先輩に声をかけられる。用紙を手渡し、指定された場所に座ろうと振り向くと、ぎこちない様子の1年生が10人ほどいた。その中に、彼女はいた。
結局ぼくは選択を変えなかった。
クラスでほとんど話さないぼくにとって、部活の時間はまるでオアシスだった。同期の部員たちはみなそれぞれに芯があり個性的だったが、いつも思いやりに満ちていた。
授業と部活をこなすのに精一杯なことに加え、
仲間たちのおかげもあり、忙しくも充実した日々はあっという間に過ぎていった。
ぼくは彼女と特別親しいという訳ではなかったが、仲良くしていた。
夏のコンクールが終わって、季節は秋に差しかかる頃。彼女に好きな人ができた。1つ上の部活の先輩。ぼくは素直に応援したいと思った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!