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第1話

○○なんていらないよ。
16
2018/11/23 03:56
春の風が吹く教室、まだ着慣れていない詰襟の学ランに首を突っ込んで黒板を見る。
と言ってもノートには鳥の絵を描いている。
高校生にもなって今の授業は『将来何になりたいか?』と言う、いかにも高校生らしくない授業だ。午後でもないが眠たくなり欠伸をして前を見る。
「私は将来まで生きたいです。」
目を奪われるような発言だった。クラス内では爆笑だった。だけど発言した人は背筋を伸ばし立っている。それが本庄絵真だった。
彼女はクラス内でも中心の人物。誰にでも優しい。こんな感じの自分にも。普段はこんな発言はしない。
俺はその発言、そして絵真にも目を奪われた。絵真の言っている言葉を嘘ではない。みんなが笑っていても発言したままの顔だ。
そんな絵真が、不思議になった。
あの発言の後も彼女は何もなかったかのように日々を過ごしていた。


「霜月夾くんだよね。」

あの発言の後から2ヶ月後、突然声をかけられた。普段から用があれば声をかけられた。けど今回のは違う気がした。
「何?」
「君、私が将来の夢について言った時笑ってなかったよね。」
「笑うことではないと思ったんだよ。それも立派な夢だしね。」
「ふぅん。そんなんだ。」
彼女の黒髪が揺れる。
『このことは秘密だよ。』
そんな風に聞こえた。
「また、話そ!」
軽やかに言ってきたが目は作り笑いだった。





普段から彼女は笑う。楽しそうに。





夏前の日。俺は絵真に誘われた。
「どこか行きたいとこってある?」
彼女はもう夏服に変えたらしい。セーラー服になっている。
「特にないよ。」
スケッチブックを片手にズレたメガネをなおす。
「じゃあさ、公園行こ!」
彼女は笑った。笑顔だけど普段とは違う笑い方だった。


俺はベンチに座り、彼女は荷物を俺の横に置いて遊具にいく。
彼女はジャングルジムに登って行った。
空は青と赤の絵の具を混ぜたような色で、彼女は映えた。その様子を俺はスケッチブックに写していく。

そんな日々が続いた。学校では普段通り。公園で会う。けど、何かをする訳でもない。彼女が遊んでいるのを描いている。時々話したりはするが『将来の夢』になんてはふれなかった。


『例えば、能力があったら絵真はどうする?』
自分自身も詰襟の学ランを脱いだ後の夏だ。
いつものように公園に来て絵真は遊んでいる。
「能力って?」
「よくあるだろ?テレパシーだったり、瞬間移動とかさ。」
彼女はジャングルジムの上に立った。そして、俺の方を見ると
「能力なんていらないよ。」
と澄んだ目でいう。
くるりと向き直すと空を見る。
「例えば、いろんな人が空を飛べるとするよ。みんなが歩かなくなるよね。みんなが飛ぶ。けどさ、考えてみると空が混雑するよね。いろんな人が飛ぶからさ。結局考えると今と変わらないんだよ。それなら、なくても変わらないよ。」
「そうだな。」
そう話した絵真の姿は1番綺麗だった。

『そう能力なんてあったって未来は変わらないんだから。』
そういった絵真を俺は見えなかった。




夏真っ盛りになった日。
いつもより俺は遅く登校した。普段なら大概いるはずの絵真がいなかった。

HRが始まり入ってきたことに先生が持っていたのは1輪の花と花瓶だった。







『……本庄絵真さんが事故で死にました。』







そんな声が頭の中で振動する。
ぽわぽわと。
その後のことは覚えていない。クラスの奴らは泣いていたっけ。俺はどうだったんだろ?
絵真は学校に行く途中。トラックに跳ねられたらしい。
そんなことがあるのか。



気がつくといたのはいつも絵真と会う公園だった。
もう、絵真は居ない。
帰ろうと思った時ポトリと落としたのはスケッチブックだった。


取ろうとすると風でページが捲られた。どのページも『絵真』だった。
笑っている絵真が多い。
だんだん視界がわるくなっている。紙に水が落ちている。フレームに水が溜まる。いや、俺の涙だ。
そうか、泣いているのか。
絵真が居ない。この世に。それが分かったのはこのスケッチブックだった。





絵真の葬式には俺は行った。別に俺がいても変には思われなかった。クラスの奴らはほとんどいる。みんな涙を流している。
俺は泣けなった。それに違和感がある。絵真の遺影だ。笑っている絵真なのに俺の知っている笑い方じゃない。クラスでの笑い方だ。
クラスの奴らが話していた。絵真は元々持病があったらしい。それも余命宣告されていた。余命は今年の夏。どちらにせよ絵真は死んでいたのか。



葬式が終わり、みんなが悲しみに潰されている時。俺は声をかけられた。

「霜月夾くんよね。」
ふと振り返ると絵真に似ていたが違う女の人がいた。
「はい。そうですけど。」
「こんにちは、絵真の母です」
絵真の母親と名乗れた人に声をかけられた。
「絵真から君のことは聞いていたんです。毎日ね。」
俺は別に何もしていないのだが。
「それでね。絵真の机の上からこんなのが置いてあったの。」
と出したのは手紙だ。
「貰ってくれる?」
突き出した手紙を受け取った。
「君にあって分かったわ。絵真が仲良くなったの。ねえ、あの写真どう思う?」
そういい絵真の母親が指したのは絵真の遺影だ。
「正直に言ってね。」
「……俺の知っている絵真の笑い方ではないんです。」
違う、あの笑い方では無い。
「そうよね。私もそう思うの。あの子、高校入ってから笑わなくなったの、無理して笑っているように見えるの。生憎、あの子の笑って着ている高校の制服姿がなくてね。」
と絵真の母親は言う。
「ありがとう、来てくれて。家にもまた来てね。」
そう言うと絵真の母親は行って行った。




家に帰り服を着替えてから手紙を見た。エラくファンシーな便箋に小さく『霜月夾くんへ』と書いてあった。
『この手紙を見てるってことは私はもういないのか。寂しい。何も言えなくて。私は生まれつき持病があったの。もうずっと前から余命宣告されるような。だから死ぬことは怖くはなかった。けど私が死んだのはなんでだろ?
実はね。みんなに黙っていたんだ。夾くんは覚えている?あの日の話。』
あの日とは、「能力なんていらないよ。」と言ったことだよな。
『私、本当に能力なんていらないと思ってるの。夢みたいな話だと思うけど私は未来予知の能力があるの。自分だけに降りかかるのだけど。それって悲しいよね。私知ってたんだ。自分がいつ死ぬかを。』
能力なんていらないよ。って言った時の目は澄んでいた。あの時彼女は何を考えていたのだろうか。
『私はね、能力は毎日夢のように見るんだ。怖いの。それが発覚したのは高校生になる寸前、それからは死ぬことが分かっていて怖くなった。笑えなくなったの。だけど私の夢、〔将来まで生きる〕に笑わなかった夾くんの前では本当に笑えた。ありがとう。
お返事待ってます。
最後に1つ。夾くん、大好きだよ。
本庄絵真』
そんなこと今言われても遅いだろ。
手紙からは何も書いていない無地の便箋があった。それを広げシャーペンを取った。
『今更、言わないで欲しかった。
絵真のその能力を聞いた時に俺も隠していたことがあった。俺自体も能力を持っている。それは生まれつきらしいんだ。最も俺は使ってこなかった。自分の意思で出せるらしいしな。絵真にあの日、能力のことを話したのは君は受け止めてくれると思ったからだ。実際は違っただけどこれでおわいこだ。君が本当に笑えたのなら俺の意味もあるね。
これからも君のことは思って生活するよ。絵真の夢は俺が叶えるよ。
届くかは分からないけど返信を書くよ。
絵真が秘密を2つ隠していたのなら俺ももう1つ言うよ。
絵真がずっと大好きだ。
霜月 夾』
達筆とは言えない字で書いて隣に鳥を書く。
俺を封筒に入れるわけでもなく、紙飛行機を折っていく。角が綺麗になるように。

出来たら外に出た。
外は夕焼け空で君が映えた。時の青と赤を混ぜたような色に染まっている。今回は真っ白な白を空に飛ばした。


空に浮かんでいる白を見て
「絵真に届け」
そう言った。その時には白などなかった。




後日、俺は絵真の家に行った。
絵真の母親は優しく出迎えてくれた。
俺はカバンからスケッチブックを取り出した。
「これは?」
「絵真を描いたのです。どうか貰ってください。」
母親はそれを持って中を見た。
「絵真が笑ってる。」
そうポロポロと涙を流した。
「全部は頂けないわ。1枚だけ貰ってくわね。」
そういい絵真の絵を1枚とった。その写真は「能力なんていらないよ。」って言った時の写真だ。
「俺はなくても大丈夫です。だって絵真は今でも心にいますので。」
「けど、やっぱり悪いわ。だから、また見せて欲しいわ。」
母親は笑いかけてきた。



絵真の家を出た。
空は青い。
俺は
『絵真に届け』
と祈りながら家に戻って行った。





完結