第5話

判子押しの証言
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2020/05/31 14:43
「白崎さんはどんな人でしたか?なにか恨みを買われるようなことは?」

須賀原に代わって私が質問する。

まだ恐怖が拭い切れないのか、胸に手を当て、深呼吸をした。

「はあ、いや、そんなことはないですよ、よく働くし、性格もいいし……まさか恨まれるようなことは……」

「ではなにか変わったことは?」

「あっ!そういえば、ストーカーに悩まされていたみたいです……最近めっきりきかなくなったものだから収まったんだど……」

ハッとした、これは重要な証言ではないか!聞き逃すまいと、ペンを持つ手に力が入る。

「どんなやつですか、それ」

「うんと……確か長身の男性だったようです。香水だったり食べ物だったりがドアノブにかかっているっていう、ストーカー行為を受けていたそうです」

手汗が滲む。きっと重要に違いない。私は新米の刑事ではないが、重要な証言は非常に喜びたい収穫である。

事件も穏便に解決するといいのだが。

いや、きっと大丈夫なはずだろう。

今朝の情報番組の運勢占いで乙女座は一位だった。

きっと大丈夫、ラッキーアイテムの黄色のハンカチも持ってきているし……。

「有町警部、次は園長でしょうか?」

「ああそうだな」

が、これ以下の証言者は皆判を押したように同じ返答しかしなかった。

園長の川下努かわしたつとむ
「いい子でしたよ、よく働くし、性格もいいし、とても殺されるようなことは……」

と言い、

同僚の円堂隼人えんどうはやと

「ノリもいいし、いやぁ殺されるなんて災難だね……いい子だったよ。ストーカー?初めて聞いたな……」

という有様だし、

また同僚の山内亮介やまうちりょうすけ

「いい人だったんだけどなぁ……。何かまずい様なことしたのかなあ。いや、俺は知らないですよ、ストーカーのことも」

と言った。

間柄が特に親密な人間を全て当たってみたものの、大した証言は得られなかった上に、変化のない証言を何度も聞かされてため息がでる。

警察官何度も証言を求められる関係者はこんな気持ちだろうか。

「有町警部、社員名簿にちょっとおかしな人がいますよ」

須賀原の言葉で現実に戻された。

怪しい人物は片っ端から当たらねば。

「この人です」

「なんて、読むんだコレ」

「えっと……伊万里行野いまりゆきの……ですかね?」

「その女性がどうかしたのか」

「有町警部、この人男ですよ。この人、ここをつい三日前に辞めてるんです。身の上の事情で。しかもいきなりだったそうですよ」

当たらない訳にはいかないと、私の本能が直感した。

だが。


まさかあんなことになろうとは。



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