「白崎さんはどんな人でしたか?なにか恨みを買われるようなことは?」
須賀原に代わって私が質問する。
まだ恐怖が拭い切れないのか、胸に手を当て、深呼吸をした。
「はあ、いや、そんなことはないですよ、よく働くし、性格もいいし……まさか恨まれるようなことは……」
「ではなにか変わったことは?」
「あっ!そういえば、ストーカーに悩まされていたみたいです……最近めっきりきかなくなったものだから収まったんだど……」
ハッとした、これは重要な証言ではないか!聞き逃すまいと、ペンを持つ手に力が入る。
「どんなやつですか、それ」
「うんと……確か長身の男性だったようです。香水だったり食べ物だったりがドアノブにかかっているっていう、ストーカー行為を受けていたそうです」
手汗が滲む。きっと重要に違いない。私は新米の刑事ではないが、重要な証言は非常に喜びたい収穫である。
事件も穏便に解決するといいのだが。
いや、きっと大丈夫なはずだろう。
今朝の情報番組の運勢占いで乙女座は一位だった。
きっと大丈夫、ラッキーアイテムの黄色のハンカチも持ってきているし……。
「有町警部、次は園長でしょうか?」
「ああそうだな」
が、これ以下の証言者は皆判を押したように同じ返答しかしなかった。
園長の川下努は
「いい子でしたよ、よく働くし、性格もいいし、とても殺されるようなことは……」
と言い、
同僚の円堂隼人は
「ノリもいいし、いやぁ殺されるなんて災難だね……いい子だったよ。ストーカー?初めて聞いたな……」
という有様だし、
また同僚の山内亮介は
「いい人だったんだけどなぁ……。何かまずい様なことしたのかなあ。いや、俺は知らないですよ、ストーカーのことも」
と言った。
間柄が特に親密な人間を全て当たってみたものの、大した証言は得られなかった上に、変化のない証言を何度も聞かされてため息がでる。
警察官何度も証言を求められる関係者はこんな気持ちだろうか。
「有町警部、社員名簿にちょっとおかしな人がいますよ」
須賀原の言葉で現実に戻された。
怪しい人物は片っ端から当たらねば。
「この人です」
「なんて、読むんだコレ」
「えっと……伊万里行野……ですかね?」
「その女性がどうかしたのか」
「有町警部、この人男ですよ。この人、ここをつい三日前に辞めてるんです。身の上の事情で。しかもいきなりだったそうですよ」
当たらない訳にはいかないと、私の本能が直感した。
だが。
まさかあんなことになろうとは。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!