実のところなにも無い部屋に通された私達は、ソファに座るよう指示された。
「で?何について?」
彼は立ったまま聞いてきた。
「実は北の川遊園地で、そこに勤めていた白崎愛という女性が今日遺体で発見されました。毒殺されたと思われるのですが……。何かご存知ありませんかね」
「はあ、ご存知も何もね、ぼくは白崎さんとは全然仲が良かったわけじゃないんですけども」
「いや、あなた、三日前に退職されてるでしょう?身の上の都合とか何とかで。それはまたどうして?今は何をされてるんです?」
須賀原が責めるように問いただす。まるでお前が犯人なんだろうと言わんばかりに。
「辞めたのは面白くなかったからで。元々ぼくの友達……宇海っていうんですが、そいつが真っ当な職につけといってですね、無理矢理。つまりはぼくの意思では無かったんですよ。勿論、少し頑張って見ましたがあれは駄目ですね。ぼくには向かない。
ああ、ぼくは元々、ええ今もですが、翻訳家ですよ。イギリス英語から日本語の」
確かに、目の前の男が指定のジャージと帽子を身につけ笑顔でいってらっしゃーい!と愛想と放送を振りまく姿はどうにも想像し難かった。
また変な人間に引っかかったな。私は直にそう感じた。
刑事は確かに公務員だが、同時に接客業者でもある。
接客業者が相手にするのは人間だ。故に身だしなみは整えておかなければ相手に良い印象を与えることはできないし、捜査に協力的になってもらうにはつま先から頭のてっぺんまで気が抜けない。
そして相手にするのが人間なら、またその人間も千差万別、十人十色というわけだ。
我々はどうにかちょっと面倒臭い感じの人間にあたらぬようにと天に祈る他ないわけで。
「で?何か白崎さんのことで、最近変わったなっていうことは?」
「いえ、特に」
伊万里は素っ気なく答えた。
ただどうにも、関心がないようには見えなかったのである。
用無しだと見切りをつけ、立ち上がろうとした時、内ポケットのスマホが呼び出しのコールを始めたのだった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。