「そしたら僕はまた出かけてくるよ」
あの時のいつもと変わらない笑顔と言葉。
キキョウの様な紫色のマフラーをつけたその姿。
「d先生、あの鏡よろしく頼んだよ」
『待ってや!兄さん!!兄さんッッッ!!!
俺を置いてかんでッッッ!!!!!!!!!!!』
『はっ…………』
『…………またこの夢……』
兄さんが旅に出て行ったあの日。
今までなら旅先から手紙が届いたりしていた。
けれどもあの日から手紙が届くことなどなかった。
いつからだろうか。
気がついた頃には毎日兄さんが幹部の住む城から出ていくあの瞬間を夢で見るようになった。
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??「お、d先生やっと起きたかーはよ仕事せーい」
『ゲッ!!tnち………………』
tn「ん?お前まさか……またサボろうとしたんか…???」
『んなわけないやんッッッ!!!ほら、今起きたばかりだし?ご飯食べたらしっかりやるからな?な?』
tn「後で見に行ってやってなかったらシバくからな?」
『ふぁ…ふぁい……(震)』
『………………あ、そうだ。tnち』
tn「ん?なんや」
『今日あの日やん?だから仕事の前に……』
tn「あーーー。なるほどな。どうせd先生仕事しなさそうだし…そしたら今年も頼んだわ」
『了解』
tn「grには俺から伝えとく…ってその必要もないな。毎年お前がやってる事やし。」
『もう俺担当になってるんやねw』
tn「せやぞw………………けどもう四年か。」
『本当…早いな……兄さんがいなくなってからもう四年』
tn「まあ、兄さんのことやし元気にしてる気がするわ。」
『それもそやな。じゃあ俺行ってくるわ』
tn「あれ?朝ごはんはええんか?」
『それよりも俺にとってはこっちの方が大切だからな』
tn「帰ってきたら食えよー」
『はーーーい』
そう。兄さんが出ていってから今日で四年目。
俺は毎年この日にいつ帰ってきても平気なようにと兄さんが過ごしていた屋敷を掃除している。
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拝啓兄さん
兄さんが旅に出てからもう四年が経ちましたね。今年もgrちゃん.osmn.tnち.rnrn.syaちゃん.rbr.zm.emたちの9人で賑やかに幹部の仕事をしております。
来年はなんか新しいやつがまた2人くるらしいけど、兄さんが帰ってきたとき優しくしてやってな。きっといい子たちのはずやから。
はよ帰ってきてまた顔見せてな。
鬱
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『ふぅ……ついたーーー!!!』
城から20分ほどの所の森の中の屋敷にようやく(?)付く。相変わらずこの辺はどんな森よりも緑がイキイキしており動物も穏やかに過ごしている。
ここを管理していたのは兄さんのため昔は今以上にこの森は綺麗であった。とはいえ、今四年たった今も誰も手入れをしてないのに綺麗なままである。
屋敷の中に入ると森と同様そこまで屋敷内は汚れていない。
一時期誰か別の人が掃除しに来てるのか?なんて考えたが一匹狼気味であった兄さんが掃除屋なんて雇ってることもないだろうし環境的にそこまで屋敷内が汚れないのだろうという考えに至った。
『相変わらずこの屋敷掃除してない割に綺麗やな…………掃除する場所探しますか』
掃除のする意味のほぼないこの屋敷の部屋をひとつひとつ丁寧に見て回る。
まあ、どこの部屋見ても全然ほこりとか汚れもないんやけどね☆
『さて、あとは……』
そう呟くと書斎に向かい1つ「世界の分かれ時」という題名の赤い本を引き抜く。
するとよく物語にあるような感じに本棚がズズズ…と動き階段があらわれる。
俺と兄さんだけの秘密。
兄さんの大切な場所。
コツコツと靴の音をたてながら現れた階段を下っていく。
階段を降りるとどのような仕組みなのだろうか。森のように緑が地下いっぱいに広がっておりどこからか入ってきた光が兄さんが大切にしていた"それ"を優しく照らしている。
俺は光が照らす花の模様が施されたフレームのとても美しいアンティーク調の自身の腰くらいまでを映す大きめの鏡の前に立ち、兄さんとすごした日々を思い出す。
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『なあ兄さんー』
「ん?どうした?」
『俺いつか相棒が欲しいねん』
「相棒?」
『せや!!別に兄さん達を信頼してないって訳ではないんやけど兄さんやgrちゃんたち以上に隣にいると安心して楽しくてこいつなら背中を余裕で預けられる。こいつなら何があっても心配いらん。みたいなやつ!!』
「えらい理想が高いなw」
『そりゃ俺もそんなやついるなんて思っとらんよ?けどもしいたらいいなって言う願望や』
「そんなやつ現れるなんて思わんけど…」
「それでもd先生にとって最高の相棒なら絶対できると思うで」
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『俺にとって最高の相棒……な……』
そっと鏡に手を当てる。
昔から自分の中には何かが足りないと思ってはいた。そこで考えた結果たどり着いたのが心から…いやそれ以上に信頼のできる人間が自分にはいないということ。
今思うと兄さんも俺と同じような感じだったのではないかと思っている。
grちゃんとtnち、osmnとrnrn、zmとem、syaとrbr。それぞれ本当に信頼の出来る人がいる。
当時zm.emはいなかったとはいえやはりそれでも俺と兄さんにはそんな人がいなかった。だからか俺らは自然と一緒にいることが多かった。自分の中の足りないものを埋めるように。
「この鏡は新しい世界を見せてくれるよ」
兄さんが旅に出る前そんなことを言っていた。もし、そうなのだとしたら……
『鏡よ鏡。どうか俺に新しい世界を見せてください。』
目をぎゅっと閉じ口に出して願う。
こんな単純なことで御伽噺みたいに鏡に何か映ったりする訳ないか。と思いつつ目を開ける。
目を開けると、目の前が空のように青くそしてキラキラとした不思議な光景が広がる。
一瞬何が起こったのか出来なかったがその空間がとても落ち着き兄さんがいなくなってからさらに空いてしまった心を全て満たすような安心感があった。
だが少しするとどこからか声が聞こえてくる。
「そこに…誰かおるんか……?」
その声で俺は現実に戻される。
『え…』
意識が現実に戻されると先程までは自分しか映していなかったはずの鏡は太陽のような黄色い髪に空の青さを詰め込んだような空色の瞳をした白い軍服のようなかなり高価そうな服を纏った自分と同じように鏡に手を添えた美しい男を映していた。
これは忘れることのない自分の人生を変えたあいつと俺の物語_____。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。