第81話

Ep.81
1,259
2023/05/06 08:16







あなたが、椅子に座ってりんごの皮を剥いている間、無言が続く。





あなた






ふと考えてみれば、



最近2人きりの時間なんてほぼ無かったので、



急に気まずさと、恥ずかしさが入り交じる。






あなた
はい



うさぎの形にカットしたりんごを皿に乗せて、



早川アキ
ありがとう

あなた
うん




沈黙が流れる。



あなた





焦って話題を頭の中から探し出す。




あなた
まだお風呂は入れなさそう?





あ、待って




早川アキ
そうだな







これ…







アキの身体を拭かなきゃいけない流れを作ってしまったんじゃ…











拭くのは恥ずかしい。




でもこの流れで拭かないのもそれはそれで変態だ。




…いや、ていうかまず怪我人を前にそんなこと言ってられない。




馬鹿か私は。





あなた
じゃあ、身体拭かなきゃだよね

早川アキ






椅子から立ち上がって、バッグからタオルを探すあなた。





早川アキ
いや、いい
早川アキ
自分でやる

あなた





そう言われバッグを漁る手を止めるあなた。




あなた
あ、そう
あなた
でもさっき起き上がれもしなかったのに…自分で出来る?







あなたが振り返ると、アキは向こうを向いていた。


何やら様子が少しおかしい。





アキは、ゆっくり口を開く。









早川アキ
…女として意識しろって言ったの、
早川アキ
そっちだろ








あなた


あなた








言葉の意味を理解して、あなたの顔は徐々に赤くなっていく。







早川アキ
もう帰れ。
早川アキ
服、ありがとう






夕日が逆光になって、



アキの横顔を美しく照らす。




あなた
…う、ん




逃げるように病室から出る。









何それ、何それ





だってついこの間は、私のこと妹みたいなもんだって…




釘刺されたのかな、


遠回しに諦めろって言われたのかな、とか思ってて…






でも




あなた
ちゃんと、意識してくれてたんだ…





頭が追いつかない





病院の通路の壁にもたれ、ズルズルとその場に座り込み、暑い頬を冷まそうと両頬に手を当てる。





早まる鼓動が脳に響いて、うるさい。





あなた









なんとなく、




アキの頬が赤く見えたのは




きっと、夕日のせい

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