あなたが、椅子に座ってりんごの皮を剥いている間、無言が続く。
ふと考えてみれば、
最近2人きりの時間なんてほぼ無かったので、
急に気まずさと、恥ずかしさが入り交じる。
うさぎの形にカットしたりんごを皿に乗せて、
沈黙が流れる。
焦って話題を頭の中から探し出す。
あ、待って
これ…
アキの身体を拭かなきゃいけない流れを作ってしまったんじゃ…
拭くのは恥ずかしい。
でもこの流れで拭かないのもそれはそれで変態だ。
…いや、ていうかまず怪我人を前にそんなこと言ってられない。
馬鹿か私は。
椅子から立ち上がって、バッグからタオルを探すあなた。
そう言われバッグを漁る手を止めるあなた。
あなたが振り返ると、アキは向こうを向いていた。
何やら様子が少しおかしい。
アキは、ゆっくり口を開く。
言葉の意味を理解して、あなたの顔は徐々に赤くなっていく。
夕日が逆光になって、
アキの横顔を美しく照らす。
逃げるように病室から出る。
何それ、何それ
だってついこの間は、私のこと妹みたいなもんだって…
釘刺されたのかな、
遠回しに諦めろって言われたのかな、とか思ってて…
でも
頭が追いつかない
病院の通路の壁にもたれ、ズルズルとその場に座り込み、暑い頬を冷まそうと両頬に手を当てる。
早まる鼓動が脳に響いて、うるさい。
なんとなく、
アキの頬が赤く見えたのは
きっと、夕日のせい
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。