第9話

第2章【芸能界】#01
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2021/07/28 17:18
#01[家族の職業]


小鳥遊社長のお願いで翌日から早速レッスンを行うことになった為事務所の地下にある練習室にやってきた。


ちなみに私が講師になったことはまだ社長と事務員の万理さんと紡ちゃんしか知らず、アイドルたちにはまだ伝えていないらしい。


もちろんその中に陸も含まれている。


もう皆揃っているようで、先に講師が就くということだけ説明してくると言って紡ちゃんだけ中に入った。


合図を出したら入ってきて欲しいと言われたので今は扉の前で待っている状態だ。


別に昨日会ったばかりだし、そんなにかしこまらなくても大丈夫なんだけど…。


「───では、よろしくお願いします!」


おっと、お呼びのようだ。


軽く息を整えてドアノブに手をかけ扉を開ける。


中に入ると全員が驚いた表情でこちらを見ていた。


「改めまして、本日よりIDOLiSH7のレッスン講師となった七瀬あなた、もとい【七夕洋】です。」


「あなたねぇ!?」


「特別講師ってあなた姉貴かよ!!」


「というか【七夕洋】ってまさか…!」


「ラビチューブで超有名なアーティストじゃねぇか!!」


「あれ、和泉三月くんも知っていてくれたんですか。」


主にネットでの活動だから知っている人は知っているかもしれないけどネットに疎い人は本当にわからないんだけどな。


「おにーさんはちょっとわかんないんだけど、一体何者なんだ、あんた。」


「ラビチューブという動画配信サービスがあるでしょう。彼女はそこで自身の作詞作曲した曲やダンス、時にはゲーム実況なども投稿して活動されてます。その人気は絶大でラビチューブユーザーのお気に入り登録は200万人を超えています。去年は確かLIVEでアリーナツアーをされていましたよね。」


ここまで丁寧に説明されると逆に恥ずかしいんですけど…。


「い、和泉一織くん、詳しいのね…。」


「べ、別に今後の為に勉強している時にたまたま見かけただけで…。」


さっと視線を逸らされてしまった。


照れているのかな?可愛いところあるじゃん、なんて思っていると斜め前からの視線に気がついた。


「あなたねぇ、どういうこと?」


しまった!陸にはあまり詳しく活動のことは伝えてなかったんだった。


活動を始めた頃は本当に趣味程度でこんなことをしているなんて言うのはなんとなく照れくさかったし、天が家を出た頃なんて家族皆毎日泣いてて歌やってるなんて言ったら天のように家を出て行ってしまうのではないかとマイナスに捉えられてしまうと思って言えなかった。


そしてしばらくして私も1人暮らしを始めたのでますます言う機会が無くなったのだ。


別に陸にはばれても良いと思っていたので特に気にしてはいなかったが今の状況を見るにちゃんと事前に説明しておくべきだったのかもしれない。


「和泉一織くんが言った通りだよ、芸能人とはまた違うけど私はネットという場所で歌ってる。自分で作曲して作詞して、歌って踊って動画を作っているの。」


「どうして…言ってくれなかったの?」


「ちゃんと説明してなくてごめんね。陸には隠すつもりはなかったんだけど、改まって話すのはなんか照れくさくてそのままにしちゃってたの。もちろん父さんと母さんも知らないよ。」


私を見つめる赤い瞳は次第にゆらゆら揺れ始め、じんわりと涙が浮かび始めていた。


やばい、このままだと泣かれてしまう。


「ちょっっっと喉乾いてきたかもーーそうだ、飲みもの欲しいから自販機行きたいな!陸案内して!悪いけど皆さんはストレッチ等して待っててください!じゃあ行ってきます!!」


我ながらかなりわざとらしすぎる大根演技をしてしまったがここで泣かれるとまずいので半ば無理やり陸を事務所の外に連れ出した。


────


事務所を出てすぐ近くの公園のベンチに2人で腰掛ける。


陸はしばらくして一息つくと練習場を出てから続いていた沈黙を破った。


「いつから始めていたの?」


「16歳、まだ天と陸が小6の時よ。」


「…天にぃは、この事知ってるの?」


「多分知らないんじゃない?それに陸に言ってないことは天にも言ってないよ。」


「そっか…。」


そう言うとしばらく考え込んだ後にぽつりぽつりと話始めた。


「あなたねぇは俺がアイドルになるって言った時否定しないでくれて1番に応援してくれて、いつも俺のことを考えてくれているのに俺はあなたねぇのやりたいことも、好きなことも知らなかったんだね…。」


赤い瞳からは今にも涙が溢れだしそうだった。


「陸…。」


きっと家族の知らない一面を他人の口から知ることが寂しかったのだろう。


こればかりは言ってなかった私が悪い。


「寂しい思いをさせて本当にごめんね。」


零れそうな涙を指で軽く拭ってあげる。


「俺の方こそ、いつも甘えてばかりであなたねぇのこと考えてなくてごめんなさい…。」


「陸は謝る必要はないの、言わなかった姉ちゃんが悪いんだから。」


「でも、」


「でもじゃない!ほら、そろそろ戻らないと皆心配しちゃうよ?」


「うん…。ねぇ、その…言ってたLIVEのDVDあったりする?これからは、俺もあなたねぇを応援するから!」


家族に見られるのはちょっと恥ずかしいけど仕方ないか。


「わかった、じゃあ今度持ってくるね。」


「やった!」


涙は止まり先程とは打って変わって笑顔になっている。


嫌われなくて良かった…。


公園を出て事務所に向かって行く道中まだ隠していることはないかと追求されたが適当にはぐらかす。


流石に相手がいることだし、相手が相手だし…。


この事が知られたらもう1度泣かれるかもしれないと少々不安になったが今考えても仕方ないためひとまずは目の前のことに集中することにした。


結論、私は弟の涙に弱い。


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