第11話

第2章【芸能界】#03
608
2021/08/24 12:09
#03[温かい食卓]


夕方レッスンが終わりお言葉に甘えて晩ご飯を一緒に食べる為IDOLiSH7の寮にお邪魔する。


リビングに入り一息つく間もなくエプロンを片手にキッチンに向かう三月くん。


「手伝うよ。」


「いやいや、お客さんなんだから座ってていいぞー。」


「一緒に作った方が早いし一応料理は出来る方だから大丈夫だよ、何作る?」


「せっかくだしあなたさんが食べたいもの作るよ、何がいい?」


「オムライスがいい!俺、あなたねぇが作るオムライス大好きなんだー!」


「ワタシはハンバーグがいいデス!!」


「王様プリン!!」


私が考える間もなく陸とナギくんと環くんが順に言っていく。


「お前らに聞いてねぇよ!!環に至っては飯じゃねぇ!!」


「ふふっ、そしたらオムライスは私が作ろうか。」


「悪いな、お客さんなのに。」


「いいの、これから一緒に頑張っていくんだし気を遣わないで。」


それにオムライスなら天と陸の大好物なので昔からよく作っていたおかげですっかり得意料理だ。


普段から自炊はする方だけどこうして誰かの為に作るのは最近はあまりないのでちょっと嬉しかったりする。


「三月くんが料理担当なの?」


「大体は俺であと大和さんが作ってるよ。」


「三月が作るご飯どれも美味しいんだよ!あとお菓子も美味しい!」


陸はすっかり胃袋を掴まれているらしい。


「実家が洋菓子店だからさ、料理系は得意なんだ。」


「良いね、料理出来る男子は魅力的だね。」


「俺も頑張ってみようかな…。」


うーん陸はちょっと心配だから出来ればやめて欲しいかな。


こけて小麦粉とかひっくり返しそうだ。


天は「粉を吸い込んで発作が出たらどうするの」とか言いそう。


「貴方がやると片付けが増えるのでやめてください。」


と、またもやズバッと言う一織くん。


「なんだと!」


「あいつらまたやってる。」


この2人は隙あらばこんな感じになってちょっとした言い合いになるらしい。


喧嘩するほど仲が良い、ということなのかな。


そういうことにしておこう。


────


三月くんの手際の良さと他の皆も一緒に手伝ってくれたおかげであっという間に完成した。


しばらくすると事務所での仕事を終えた紡ちゃんも来て9人で食卓を囲む。


9人前の食事を作るのは初めてだ。


「いただきます。」と、皆で手を合わせて声を揃える。


「美味しい~!」


「うめぇ!!」


自分の手料理を口いっぱいに頬張りながら喜んでいるのを見ると自然と笑みが溢れた。


「良かった、作ったかいがあったね。」


「あなたさんお料理もお上手なんですね。普段からされているんですか?」


「一応料理は好きな方で自炊も結構するんだけど、やっぱり誰かに食べてもらうのって嬉しいね。」


それにこうして誰かと食べる方がいつもより美味しく感じる。


「あなたねぇのオムライス久しぶり~。」


へらっと笑みを浮かべて嬉しそうに陸は言う。


「幸せそうな顔ダダ漏れですよ。」


「幸せ~。」


「なっ…。」


一織くんが本当に幸せそうな陸を見て可愛いと言いかけグッと堪えていたが私はそれを見逃さなかった。


やっぱり一織くんはツンデレだよね。


天然な陸と良いコンビかも、なんて微笑ましく思っているとふいに頬に冷たさを感じた。


「冷たっ。」


思わず振り返ると缶ビール片手にニヤリと口角を上げる大和くんがいた。


「おねーさんも一緒にどう?」


「そうしたい所だけど生憎今日は車で来てるの。」


「残念、また今度一緒に飲もうな。」


そう言って缶ビールの代わりにりんごジュースを置いて自分の席に戻って行った。


────


楽しい時間はあっという間に過ぎ時刻は夜の10時を指そうとしていた。


「もうこんな時間だし、そろそろお暇するね。あ、紡ちゃん家まで送るよ。」


「いいんですか?」


「もう遅い時間だし、女の子の1人歩きは危ないからね。」


そう言いながら身支度を整えると陸が不服そうな表情でこちらを見る。


「えーどうせなら泊まっていけばいいのに…。」


「何言ってるんですか、女性をこんな男所帯の家に泊めさせるわけないでしょう。」


「俺の部屋ならいいでしょ!」


「そういう訳ではなくてですね…。」


「こーら陸、わがまま言わないの。一織くんの言う通り、アイドルの家にお泊まりだなんて私がファンに叩かれちゃうわ。」


そうそう忘れてはいけないのは彼らが【アイドル】ということだ。


陸が私にべったりなのは昔からだが姉弟だということを知らない人が見たら勘違いされかねない。


「むー…。」


また子犬のような顔でこちらを見る。


私も自覚しているが陸のこの顔にめっぽう弱いので揺らぎそうになるのをグッと堪えた。


「そんな可愛い顔してもだーめ!じゃあまた来週ね。」


「あ!約束忘れないでね!」


約束と言われて直ぐにDVDのことだということを思い出した。


流石に覚えていたか…。


「はいはい。」


皆に見送られながら玄関で靴を履く。


「今日はありがとうございました。来週からよろしくお願いします。」


壮五くんが礼儀正しくお礼を言ってくれる。


皆も続いてありがとうと感謝を伝えてくれた。


私の方こそ今日は久しぶりに温かい食事が出来て嬉しかった。


誘ってくれた陸に感謝だね。


「こちらこそ楽しかったよ、ありがとう。一緒に頑張ろうね。」


「またね!」


手を振ってくれる皆に手を振り返し「おやすみ。」と伝えて寮を後にした。


────


プリ小説オーディオドラマ