無料ケータイ夢小説ならプリ小説 byGMO

121
2021/07/27

第8話

第1章【決意】#07
#07[姉として]


「レッスン講師、ですか?」


突然の話に少し驚いてしまった。


まさか今の話の流れでそんなお願いをされるなんて思ってもみなかったから。


横にいる紡ちゃんも長髪の男性も驚いている。


「おと…じゃなくて社長!いきなりそんなこと言ってはあなたさんも困ってしまいますよ!!」


「大丈夫よ紡ちゃん。社長さん、どうしてまたレッスン講師なのでしょうか。」


事務所の所属タレントでなくレッスン講師だなんて、しかもIDOLiSH7の。


私は人に教えられる程のものではない、芸能界で闘うならその界隈でそれなりに経験のある人のほうがいいのでは。


「陸くんの歌唱力は貴女の指導あってこそのものだと彼が教えてくれました、それと先日ダンスで上手く出来なかった振付もお姉さんがアドバイスをくれたおかげで出来るようになったとか。」


それは違う、陸の歌唱力は陸の努力と才能あってこそだ。


私は喉を痛めないように少しコツを教えてあげただけ。


ダンスもこの間陸がラビチャで上手くできないステップがあると動画を送ってきたので改善点を伝えただけ。


「彼らはひとりひとり個性があって魅力的、しかしまだまだ経験不足な所もある。それに貴女の指導が加われば彼らはまた大きく成長できるのではないかと思います。」


先程までニコニコしていた表情から一変して真剣な顔で真っ直ぐ見つめられる。


紡ちゃんといい、親子揃って芯が通ってるな。


しかし弟がお世話になっている事務所のお願い、出来ることなら協力したいが私にもやるべきことが…。


あ、そうか。


この機会を活かせばいいのか。


「わかりました、ただし条件があります。」


「条件?」


「はい、まず弟が普段お世話になっているのでレッスン料は頂きません。」


「それは流石に…!」


「その代わり、お願いがあるんです。」


────


その日の晩。


ラジオを撮るまでまだ時間があったため自宅の湯船に浸かりながら昨日今日までの出来事を振り返る。


嵐の中のLIVE、陸の発作、IDOLiSH7のメンバーとそのマネージャーと初対面に小鳥遊事務所の社長からのスカウト。


「なかなか怒涛の2日間だったな…。」


まさか小鳥遊社長が私の事を知っていたとは、オフの日も気を抜いてはいけないな。


普段仮面をしているとはいえ、声と喋り方でわかる人はわかるのかもしれない。


いっそ顔全体隠すべきだったか…しかしそうしてしまうと歌いづらい。


「レッスン講師、ねぇ。」


正直私がいなくても彼らは自分たちで成長出来ると思う。


今まで実際にパフォーマンスを見てきたけど回数を重ねる毎にさらに上達している。


しかしいい機会なのでこれを利用することにした。


私の条件は1つ。


レッスン料は受け取らない代わりに大きなLIVEの時やTV出演等の時に紡ちゃんのサブ的な形で時々同行させて欲しいこと。


これは陸の体が心配というのと、もう1つ目的があるから。


5年前、私たちから家族を奪ったあの男…【九条鷹匡】の闇を暴くため。


両親の店が経営難になったのは突然だった。


客足が遠のいたのも、スタッフがどんどん辞めていったのも恐らくあの男が関与しているに違いない。


天を求めた理由もはっきりわかっていなかった。


両親の店を潰して大金を支払ってまで天を養子にしたあの男。


ネットの力だけではあの男のことを調べることは難しかった。


だから陸を見守りたい、ということを名目に芸能界についてあの男のことを調べることにした。


もちろん陸のことは心配。


万が一、陸まで奪われるなんてことが起きたら耐えられないから。


しかし心配事はもう1つ。


もし【彼】に会ってしまったら…?


TV出演があるとしたら当然共演等で会う可能性が高いわけで。


「いや、家族の為よ。」


その時はその時だ。


それに彼に対する感情はもうなくしたのだ。


きっと彼も私のことなんて大して気にしてなんかいないはず。


それよりも私は陸を守らなければならない。


「絶対、好きにならない。」


そう【決意】した。


────





第1章【決意】




Fin.


────





都内某所。


「ねぇ、最近楽ってばなんかおかしくない?」


差し入れでもらった可愛らしい見た目の甘ったるいケーキをフォークでつつきながら訝しげにこちらを見る。


「なんでだよ。別に普通だろ?」


「でも今日の歌番組の収録の時も客席をキョロキョロ見渡してたよね。まるで誰かを探しているみたいに。」


「あ、そういえばこの間のアリーナツアーの時も誰か探してたよね!」


「何それ、もしかして彼女?プライベートの事まではとやかく言わないけど公私混同は止めてよね、ファンの子を悲しませたら許さないから。」


「だからちげーって!」


龍の奴余計なこと言いやがって。


だが天の言う通り最近少し集中出来ていないのは自覚している。


あの日からただ我武者羅に前に進むことだけを考えて、今こうしてこいつらと歌っている。


ただ最近は無意識に【あいつ】を探してしまっている。


もう2度と会うことはないのだろうか。


もしどこかでもう1度会えたなら、次は絶対に【離さない】。


────