#07[険しい道のり]
皆でいなくなった一織くんを探しに外に出るが見つからない。
「一織が歌を忘れたのは俺のせいだ…。あの時、発作を起こしかけてて、その事に一織は気づいて、気が散って…。」
陸は悪くない、私が陸の傍にいて体調に気づいてあげていれば…。
「陸、誰が悪いとか、何が悪いとか犯人探しとかしなくていいんだ。」
「大和さん…。」
「ミツ、イチの行きそうなとこは?」
「んー、…あ。」
「心当たりが?」
「俺が落ち込む度に行っていた場所、一織も連れてったことがある。大好きなゼロが最後のステージをした場所…。」
【ゼロアリーナ】
伝説のアイドル、【ゼロ】が姿を消す前に最後に歌った場所。
「私は皆の荷物を車に積んでそっちに向かうから皆は先に行ってて。」
「あなたさん、でもお1人じゃ…。」
「大丈夫よ、そんなことより早く一織くんの所に行って。きっと1番責任を感じてしまっているだろうから。」
「ありがとうございます…!」
走って行く皆の背中を見送りTV局へとUターンする。
楽屋に入ると何か踏んでしまったようで足元でパキッと音がした。
「何これ…。」
プラスチックの破片だろうか。
周りを確認しても何か壊れている形跡はない。
何となく、嫌な感じがするが気を取り直して皆の着替えや荷物を何回かに分けて車に積んだ。
忘れ物がないか最終確認をした後自分の荷物を持って楽屋を出る。
番組も終盤なのか、結局他のアーティストともすれ違うことなく無事に地下駐車場に着いた。
事務所の車に乗り、エンジンをかけゼロアリーナに向かって車を走らせる。
おそらく私がいた事は彼らにはバレていないだろう、そう信じたい。
きっと今回あの子たちのデビューは遠のいてしまったけれどまたチャンスはある、また彼らと共演する日は来るだろう。
それまでにしっかりメンタルを鍛えとかないと、今日ちょっと顔を見てしまっただけでこの有様だ。
「こんなんじゃ駄目だ…。」
情けない自分が嫌になった。
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ゼロアリーナの近くに車を停車させる。
車を降りてしばらく待っていると8人全員で戻ってきた。
皆の表情は少し晴れているように見えた。
「あなたさん!」
「もう皆大丈夫そうね。」
一織くんと目が合う。
「せっかくレッスンして頂いたにも関わらず、あなたさんの時間を無駄にしてしまい、すみませんでした…。」
泣き腫らして赤くなった目を逸らし、頭を下げる。
「顔を上げて、謝る必要は無いよ。失敗は誰にだってあるし君たちの夢は君たち自身で終わらせない限り夢であり続ける。まだまだこれからよ。」
そう言っていつものくせで陸にするのと同じ感覚でよしよし、と一織くんの頭を撫でる。
「…っ。」
急に触れられて吃驚したのかすぐにかわされてしまった。
急に触った私も悪いけどあからさまに避けられるのはちょっと悲しい、なんて。
ひとまず一旦皆で帰ろう、暖かい家に。
「さぁ帰りましょう。今日の反省点を活かして明日からまた頑張ろうね!」
どんなに壁が高くてもどんなに道のりが険しくても彼らなら乗り越えて行ける。
大丈夫、まだ夢は終わってなんかいないのだから。
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第2章【芸能界】
Fin.
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都内某所
「お疲れ様です。今日は親父がすみませんでした!」
「お疲れー!本当に大丈夫だって!それより今日のステージもめちゃくちゃ良かったよー!3人ともかっこよかった!!」
「ありがとうございます。」
「ねぇ百。僕はどうだった?」
「もっちろんダーリンが1番イケメンだったにきまってるでしょ!!」
いつもの如く流れるように夫婦漫才が始まった。
「相変わらず仲が良いですね。」
「まぁね。あ、そういえば百。今日そこの廊下歩いてたらあの子がいたんだ。」
「えぇっ!!?何でまたTV局に!?まままさかメジャーデビュー!?」
「いや、なんか知り合いの手伝いとか言ってたけど。百によろしく言っといてってさ。」
「ええええどうせなら久しぶりに会いたかった~!!」
「ご友人でも来られてたんですか?」
「そう、僕らがまだ売れる前からの付き合いでね。デビューしていてもおかしくないくらいの才能を持っているのに頑なにTVに出たがらないんだ。」
「歌もダンスもめちゃくちゃ上手くてあとゲームも上手い!機会があったら3人にも紹介するよ!めっちゃいい子だしきっと気に入るからさ!」
「楽しみにしてます。ではまた。」
「パパによろしく言っといて。」
手を振る2人に軽く会釈して楽屋を後にする。
自分たちの楽屋に戻るまでの道のりは先程の話の人物の件で盛り上がっていた。
今の日本のトップアイドルが絶賛する程の実力の持ち主、3人共自然と興味が湧いた。
「Re:valeさんも認めるって一体どんな人なんだろうね。」
「楽みたいに凄いイケメンだったりして。」
「龍みたいに筋肉バキバキだったりしてな。」
「それか天みたいな天才気質なのかな。」
「何にしろ、僕らにとってライバルになりかねないくらいの才能の持ち主なんだろうね。」
「まぁどんな奴が相手でも俺らが勝つけどな。」
俺らはいつだって前に進み続ける。
仲間の為、そして自分自身の為に。
今までも、そしてこれからも。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。