#04[嵐の中]
あれから数週間後。
いつも如くIDOLiSH7の路上LIVEを見に来ていた。
陸が心配で見守っていると言いつつ彼らのLIVEが楽しみになっている自分もいる。
今回は駅前ステージ、しかし先程からパラパラと雨が降り出していた。
もうすぐ開演の時刻だがこの調子じゃ今回は中止になりそうだ。
人通りの多い駅前なら良い宣伝になっただろうに…。
次第に雨は酷くなり、電車も運行見合わせになっているようで駅前は混雑してきた。
中止になったとしてもしばらく帰れそうにないな…。
車で来るべきだったな、と少々後悔していると彼らはもう既に雨でびしょ濡れになっているステージに元気よく登場した。
「こんにちはー!IDOLiSH7です!!」
衣装もセットした髪もびしょ濡れな彼らは降り続ける雨もお構い無しに歌い出した。
「ちょっ、陸ったら!!」
体に気をつけてってあんなに言ったのにこんな無茶して!!
今すぐ止めに行きたい、でもLIVEは開始してしまったので途中から私が乱入してしまえば周りは混乱してしまうだろう。
「どうすれば…!」
そうだ、あの子のマネージャーに話をしよう。
陸には悪いけど状況が状況だし、私から発作のことを話してLIVEを中止にしてもらおう。
そう考えてステージに繋がる裏口を探そうと移動を試みるが、混雑しているせいで身動きがとれなくなっていた。
「ぐっ…!」
人の流れに押されてしまう。
なんとか流れから抜け出せた頃にはステージからだいぶ離れてしまった。
「陸…。」
電車が止まっているのもあってかファン以外の人も足を止めてLIVEを見ている。
きっとこれを機に新しいファンが増えるだろう。
姉の気も知らないで楽しそうに歌って…。
どんな最悪な状況でも陸は歌うことをやめないのだろうか。
「天が見たら何て言うか…。」
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LIVE開始から約2時間
未だ彼らは歌っていた。
なんとかステージの袖近くの壁際まで辿り着いた。
陸の様子を見ると顔色が悪く肩で息をしておりもういつ発作を起こしてもおかしくない状態だった。
メンバーも観客も陸の状況に気づいていない。
アンコールが終わり、やっとLIVEが終了かと思いきやまた更にアンコールがかかる。
「これ以上は…!」
飛んで行きたい気持ちを抑え、見守り続けるとメンバーの1人が陸の体を支え、何やら耳打ちをしていた。
あの子は確か【和泉一織】だったっけ。
もしかしたらあの子は陸の状態に気づいているのかもしれない。
お願いだから今すぐ止めて欲しい、なんて思いは届かず陸は和泉一織を制止してまたアンコールに答えるのであった。
────
何度目かのアンコールに答え、歌いきった後
「皆ー!電車動いたってー!暖かいお家に帰れるよー!」
陸のその言葉で人々は安心した表情を見せた。
雨の中2時間半歌いきり、やっとLIVEは終了。
彼らはステージ裏へと去っていく。
「もう無理」
陸も私も限界。
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「お疲れ様でした、タオルどうぞ!」
「さんきゅ、マネージャー。」
雨の中の路上LIVEが終わり、皆びしょ濡れになった体をタオルで拭いていく。
正直風邪をひく事よりも心配事があった。
「…七瀬さん。」
「はぁ、はぁっ…何時間、やってた…?」
良くも悪くもこの人が自分達の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。
「2時間半です。」
「ほ…ほらな、出来たじゃん、本番の、LIVEと同じだけの時間、…俺にも、…。」
「七瀬さん!!」
ずるずると壁を伝って倒れていく体を慌てて支える。
「陸?」
「どうした、陸!」
他のメンバーも陸の様子に気づき始める。
「マネージャー!七瀬さんのカバンを探って下さい!吸入器があるはずです、発作止めの!!」
「はっはい!!」
「───その必要はない。」
「!?」
突然目の前に見知らぬ女性が現れた。
いつの間に…?気配を全く感じなかった。
女性は自身の鞄から何かを取り出しながら七瀬さんに近づき膝をつく。
「な、なんなんですか貴女は!ここは関係者以外「うるさい、ちょっと黙って。」…は?」
「こら陸、姉ちゃんとの約束どうなってるの?」
「「「ね、姉ちゃん!?」」」
「あなたねぇ…何で…。」
「馬鹿な子、姉ちゃんは何でもお見通しなのよ。ほら、吸入器。」
そう言って七瀬さんの頭を撫で、慣れた手つきで吸入器を使用する、赤髪の女性。
そういえば、どことなく七瀬さんに顔立ちが少し似ている。
「もうすぐ救急車来るからね。あ、マネージャーさんも陸の荷物持って着いてきて!」
「は、はい!!」
「リーダーさんはこの場の後処理よろしくお願いします。」
「え、はい…。」
彼女は七瀬さんの体をタオルで拭きながら周りに冷静に指示を出す。
救急車って、こうなる事がわかって…?
「あと、和泉一織くん。」
「はっ、はい。」
「ありがとう、陸の事支えてくれて。」
「!」
そう言うと彼女は穏やかに微笑んだ。
数分後に救急車が裏口に到着し、七瀬さんとマネージャー、そして彼女を乗せて走り出した。
「りっくん…大丈夫、だよな?」
「大丈夫さ、マネージャーもお姉さん?も付いてる。」
「それにしても、陸くんお姉さんもいたんだね。」
「とてもクールビューティーな女性でしたね!」
「こらナギ!そんな事言ってる場合じゃねぇだろ!!」
「ひとまず、私達も寮に帰りましょう。」
救急車が走り去った後を見つめる。
風のような人だったな。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!