第7話

第1章【決意】#06
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2021/07/27 04:45
#06[小鳥遊事務所]


翌日。


車で陸を迎えに行き、手土産を適当に見繕って寮へと向かう。


定番のお茶請けのお菓子と、王様プリン。


何かメンバーの1人の大好物だとか、四葉環くんだっけ。


「はぁー、一織怒ってるだろうなぁ。」


助手席で項垂れながら盛大に溜め息をつく。


「それはそうかもねぇ、沢山心配かけたんだから。」


「それを置いといても一織にはいっつも怒られてるんだよ、あいつ説教好きなとこもあるし?」


「いいじゃない、叱ってくれてるってことはちゃんと陸のこと考えてくれてるってことよ。」


「そうだとしても~…。」


運転しながらちらりと横目で陸を見ると眉をしょんぼりさせて口を尖らせている。


心做しかしょんぼりした犬耳が生えているような気がした。


「ふふっ。」


「何で笑うのっ。」


「なんでもない。それより陸、アイドル楽しい?」


「うん!一織と、大和さんと三月とナギと、壮五さんと環と、皆で歌って踊るの凄く楽しいんだ!」


それから寮に着くまでニコニコしながら嬉しそうにメンバーとのエピソードを聞かせてくれた。


今度はフリフリした尻尾が見える、なんて思ったことは内緒にしておこう。


────


寮に到着し手土産を持って陸について行く。


「こっちだよ!」


玄関で渡された来客用のスリッパに履き替えて中へ案内される。


「ただいま~。」


リビングであろう広々とした部屋に入ると小鳥遊さんとIDOLiSH7のメンバーが全員揃って待っていた。


「りっくん!!」


グレーのパーカーを着た長身の男の子が勢いよく立ち上がった。


中に来ているシャツに「王様プリン」とプリントされている。


彼が四葉環くんか。


「皆、心配かけてごめんなさい。」


「病気のこと聞いた、これからはちゃんと相談しないと駄目だぞ!」


「僕たちに出来ることがあったらいつでも力になるから何でも相談してね。」


可愛らしい顔立ちの和泉三月くんと、優しくて穏やかな雰囲気の逢坂壮五くん。


「リクが無事で本当に良かったデス。」


絵本の中の王子様ばりに整った顔立ちの六弥ナギくん。


近くで見ると本当美形だな。


「おにーさんたちも気づけなくてごめんな、今後は何が起きても大丈夫なように一緒に対策考えようぜ。」


この人が私と同い年でリーダーの二階堂大和くんか。


なんとなく、誰かに似ているような…。


「皆ありがとう…これからもよろしくお願いします!」


良かった、良いメンバーに巡り会えたみたいね。


「七瀬さん、そちらの方はもしかして…。」


「あ!紹介するね、」


「陸がいつもお世話になっております。改めまして、姉の七瀬あなたです。昨日は困惑させてしまってごめんなさい、これお口に合うかわかりませんが皆さんで召し上がって下さい。」


「王様プリン!!!!」


手土産を差し出すと四葉環くんが1番に食いついた。


「あなた姉貴、めっっちゃ良いひとじゃん。」


姉貴かぁ、なんか新鮮だな。


「たっ環くん!初対面の女性にそんな呼び方して…!」


「ふふっ、構いませんよ。」


「陸に九条天だけじゃなくてこんな美人なおねーさんがいるなんてな、いくつ?」


「女性に年齢を聞くのは失礼ですよ、二階堂さん。」


「大丈夫ですよ、和泉一織くん。歳は二階堂大和くんと同じ22歳です。」


「…昨日も思いましたが私たちのことご存知なんですね。」


「もちろん、弟のメンバーですから。それに私、IDOLiSH7のLIVEいつも楽しみにしているんですよ。」


「Oh…こんな美しいレディに今まで気づけなかったなんて!」


「陸にばれないように隠れて応援していましたから。」


毎度毎度違うパターンの変装したりしてね。


「全部見てくれてたのに俺も全然気づかなかった!」


「全部、ですか。」


「そう、最初は陸が心配で見に来てたけど皆さんの歌とダンスを見てるとなんか楽しくなっちゃって。」


「もうファンじゃん、それ。」


環くんの言う通り普段から作業しながら彼らの歌を聴いてるし、新しい情報がすぐ入ってくるようにサイトもブックマークしている。


傍からみたらかなりファン。


「ふふっ。そうだね。不束な弟ですが、皆さんこれからもよろしくお願いします。」


「あなたねぇ、今日はこの後なんか予定ある?久しぶりにご飯一緒に食べたい!」


お誘いは凄く嬉しいけど今日は夜からキヨとラジオを撮る約束がある。


「残念ながら仕事があるの、また今度ね。それに事務所の方にも挨拶しに行かなきゃ。小鳥遊さん案内お願いしてもいいですか?」


「はい!」


「えー…。」


「何わがまま言ってるんですか、貴方は病み上がりでしょう。姉離れしてさっさと体調を万全にして下さいよ。」


「一織だってブラコンのくせに…。」


口を尖らせながらぼそっと呟く。


「今なんて言いました?」


「こらこら喧嘩しないの。陸、また連絡するから。それでは失礼します。」


「またなー。」


皆に手を振り、寮を後にする。


「陸さんのお姉さん、事務所の駐車場がなくて、歩いてそう遠くはないんですけど大丈夫でしょうか?」


「大丈夫ですよ、あとそこまで気を遣わなくていいですよ。気軽にあなたって呼んで下さい。」


「じゃあ…あなたさん。」


「私も紡ちゃんって呼んでもいいかな?敬語も外すね。」


「はいっ是非!」


彼女は表情がころころ変わって一生懸命で素直な感じがとても可愛らしい。


こんな女の子だったら、もっと素直になれてたら…なんて考えてしまう。


「あなたさん!こちらです!」


────


事務所の中に案内され、彼女について行く。


社長室と書かれたプレートのあるドアを軽くノックした。


「失礼します。」


「失礼します。」


彼女の後に続き中に入ると優しげな雰囲気の男性がピンク色のモフモフした生き物を抱き抱えていた。


隣には長い髪を1つに束ねた若い男性もいる。


この人もどこかで見たことある気が…。


「みゅ?」


もふもふした生き物が首?を傾げてこちらを見て鳴く。


か、可愛い。


「初めまして、社長の小鳥遊音晴です。」


「七瀬陸の姉の七瀬あなたです。この度は弟がご心配とご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした。」


「いえいえ、とんでもございません。お会いできて嬉しいです、【七夕洋】さん。」


「た、七夕洋さんって、あの?」


若い男性が驚いた表情でこちらを見る。


「どうしてそれを…。」


私は普段仮面で目元を隠して活動しているし、どこかの誰かさんのようにSNSに流出したこともない。


「当たりみたいですね、陸くんの声と歌い方がなんとなくが似ていて実は姉弟なんじゃないかって。」


本当にそれだけなのか、と疑ってしまう。


「それに、過去にスカウトメールを送らせて頂きました。数年前ですけどね。」


「そうだったんですか。」


過去に何度か事務所に所属しないか、というメールが何件かきたことがあるが自由に活動したいという気持ちが強かったので全部無視していた。


「デビューしていてもおかしくないくらい貴女には音楽の才能がある。芸能界に興味はないのですか?」


「縛られるのは苦手でして、今の活動くらいが丁度良いんです。自由に歌って踊ってやりたいことやって、ありがたいことにそれを見て楽しんでくれる人がいるので。」


「そうですか…それは残念です。」


「ですが、TVを見るのは好きですよ。IDOLiSH7、とても魅力的なグループですね。いつかTVで拝見出来るのを楽しみにしています。」


「ありがとうございます。…そういえば、洋さんはご自分で作詞や振付までされていましたよね。聞いたところによると独学だとか。」


「はい、そうですが…。」


たまに友人に手伝ってもらったりするが 基本的に自分で作曲した曲は作詞と振付、動画の編集まで全て自分で行っている。


独学に関しては両親のショークラブのおかげで幼い頃は音楽の傍で育ってきたし、この活動を始めた頃も他の活動者を見て学んできたから、まだ勉強不足な所があると思うけど。


「もしよろしければ、IDOLiSH7のレッスン講師をして頂けないかと思いまして。もちろん、レッスン料はお支払い致します。」


…。


レッスン講師?


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