気づいた時には何もなかった。
虚無、虚空。
一切の気配すら感じない、そして、光の一筋も通さないような闇に苛まれ、踠き、足掻き、力尽きる。
その様を、もう幾度となく繰り返した。
もう何度目か、そろそろ気力もなく途方に暮れ始めた頃、背後にひとつ、気配が生まれた。
其れを光と勘違いした、余りにも哀れな人間は、何を期待したのか思い切って振り返る。
一瞬にして絶望に染まった面を気配は強く掴み叩きつけると、硬いもの同士がぶつかり合うような、重い音があたりに谺した。
足元に転がった面を踏み躙ると、面の欠片から悲痛な叫び声が上がる。
きっと痛かろう。辛かろう。さぞ苦しむことだろう。
そうこうしていると、面の中は完全に黙ってしまった。
床に転がったままの中のソレを気配は突き落とす。
完全に孤独となった気配は面を掻き集め、そして、新たな“面”として気配を受け入れる。
気づいた時には、何もなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。