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第1話

突然の出来事
80
2018/08/20 19:12

「あっつい・・・。」
タオルで汗を拭ってから、スマホの画面を確認すると“ただいまの気温36度”と示されていた。私はそれに対して何も言葉が出なかった。買い物袋には、溶けているであろうアイスのパックと、おすそ分けのきゅうり、それに飲みかけのジュースが入っている。どれももうこの暑さで冷たくはない。私はぬるいジュースの蓋を開け、3口程飲んだ。
(もう終わっちゃうな…。)
そんなことを考えながら家へ向かう海岸沿いを歩いていると、前方から4人の男子が走ってきた。どうやら1人が3人に追いかけられているようだ。その追いかけられている1人が私を見つけた途端、スピードを上げてこちらへ走ってきた。後ろを見ても誰もいない。やっぱり私に向かってきている。私は怖くなって逃げようとしたところを捕まった。すぐに男はその3人に向かって私を見せるようにして、こう言った。
「この子!彼女って言ってた子!合宿初日に助けてくれた優しい子なんだ!」
「え……?」
あははと3人に笑う彼は、誰だ?会ったことも無い。そもそも彼女って…。え、え、おかしいでしょ。いつそうなったの?誰よあんた。色んな言葉が頭をぐるぐる回ってる。
 すると、3人のうちの髪がはねているチャラそうな人が質問をしてきた。
「へぇー君が。よろしく!俺こいつの友達の吉川 光牙(ヨシカワ コウガ)。早速だけど君は昴(スバル)のどんなところを好きになったの?」
「ちょっ・・お前なぁ!」
どんなところと言われても、まずこの状況が理解できていないから答えるなんて出来ない。黙りこんだ私を見た3人は、
「おーい光牙、いきなり聞くから固まっちゃったじゃない。」
「ごめんね。えっと、君は・・・。」
光牙って人の横にいた2人に質問された私はとりあえず話を合わせて答えようとした。すると突然背中をトンと叩かれた気がした。
「・・・?」
背中を見ようと首を後ろに向けると、隣の男子が片手を立てて口パクで『ごめん』と言っている。私はその必死さに思わず鼻で笑ってしまった。それに気づいた1人の男子が
「どうしたの?」
と聞くので私は笑顔で返答した。
「あ!いえ!私は夏川 永莉(ナツカワ エリ)です。それより暑くないですか?もう少し行ったところに私の家があるので寄っていきませんか?」
笑顔…だったと思うけど、すごい早口だったかもしれないと今になって不安が押し寄せてきた。相手は少し考えてるようだ。
「自由時間まだあるから良いんじゃない?」
「永莉ちゃん、お願いしたいんだけどどのくらいかかる?」
「えっと、あそこの浮き輪が売っているお店の隣の道を入ってちょっと歩いたところなので、10分もかからないと思います。」
私は100メートルくらい先にあるお店を指差して説明をした。
「じゃあ大丈夫だろ?」
うんと頷く様子を見て、私はホッとした。この暑い中で立ち話は…さすがにつらい。
「じゃ行こうか。そこだよね?」
「あ、はい!」
私は突然道を聞かれた状況から必死に逃げ切ったような気になっていた。しかし、問題はまだ解決していない。前を歩く4人の男子のうちの一番後ろにいる人の手を引いた。さっき私を捕まえた人を、バレないように。
「え。」
「話…後で聞くので。どこの誰かも分からないあなたのこと…ちゃーんと聞くので。」
暑さと突然のこととが重なって私はうんざりしていたから、言ってやった。そんなことをしているとすぐに家に着いた。
「あ、ここです。」
「へぇ!永莉ちゃんの家ってカフェみたい!」
「夏の間だけ、かき氷とか出してて。一応メニュー持ってきますね。」
私が家に上がろうとすると、不意に手をつかまれた。
「タダ?」
「いいえ。」
苦笑いする彼らに、メニューを渡すとたちまち
「安っ!」
という声が上がった。
「普通でも500円とか800円とかするのに、330円って安すぎない?」
「え、そうですか?普通だと思うんですけど。」
そんなたわいのない会話が楽しくて、つい話し込んでしまった。話の中で吉川 光牙(ヨシカワ コウガ)くん、成岡 海斗(ナリオカ カイト)くん、汐留 湊人(シオドメ ミナト)、そして夏井 昴(ナツイ スバル)と名前が分かった。おまけに、SNSの友達にもなった。彼らの住んでいる所ではすぐに交換とかするらしい。私の町では、同世代が少ないからか交換とかは少ない。
 気づけば30分も経っていた。
「そろそろ練習じゃね?」
「帰らないと。」
その時、私は肝心なことを聞いていないことを思い出した。
「そういえば、何でこのまちに?」
すると、帰り支度をしながら海斗くんが答えた。
「バスケの合宿でさ。そこの体育館でやってるの。」
「へぇー…バスケですか…。」
「永莉ちゃんは、バスケとかする?」
「やります!やりますけど、骨折したことがあって…。」
「そっか・・・。」
そんな話の最中に帰り支度が終わったようだ。
「じゃあ、ありがとう!」
「もし良かったら、見に来てね。」
「試合あるんだよ。1週間後に。」
「昴、喜んでシュート数増えそうだし~。」
からかう彼らを見て、笑って私は見送ることができた。
「もし行けたら応援行きますね!」
手を振って、お別れして、気がついた。

昴くんに何も聞いてない!!
私、あの昴って人の彼女ってことになってるの!?

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