第3話

『モノクロの世界で』
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2019/05/06 04:01
北川大輝
北川大輝
南野
部活の時間も終わり、ひとりで美術室を出た私を、北川くんが呼び止める。
北川大輝
北川大輝
さっきの話なんだけど、やっぱり入部してみない? さっき、人が絵描いてるところ、ずっと楽しそうに見てたじゃん
南野柑奈
南野柑奈
ううん、私には美術部は無理。私……色が見えないの。知ってるでしょ、U16型ウイルス。……感染者なの。私の症状は、“U16モノクローム症候群”
20年前に発見されたウイルス。

ワクチン接種が義務付けられて、このウイルスに苦しむ人はいなくなったはずだった。
生まれつき抗体を持っている、私みたいな子ども以外は。

私は、生まれた時から色を見たことがない。
見える景色は、白、黒……ずっと灰色。
南野柑奈
南野柑奈
皆、空は青くしろとか、太陽は赤くしろとか説明するけど、私には違いがわからない。私の世界では太陽は赤くないし、空も青くないのに。言うことを聞いて、赤くしたり青くしたところでどうなるの? 私以外を満足させればそれでいいの? いつも、出来ないならやらなくていいって言われ続けてきた。だから、美術部は入っちゃいけないの

中学校の時も、そうだった。
美術の先生には、頼んでもいないのに授業を免除されて。

皆で、ポスターを描いた時にも、「柑奈は何もしなくていいよ」って。

気をつかってくれたんだと分かった。
それは優しさだったのかもしれない。

でも、陰では悪口を言っていたことも知っている。
中学時代の同級生A
柑奈と同じグループだと仕事増えて嫌なんだけど。でも、見えない奴に変な色塗られるよりはマシだし
中学時代の同級生B
それ正解。あたし小学校の時から同じだけど、美術の授業やばかったよ。太陽は緑だし、人間の肌は灰色だし。クラス中ドン引き。色が見えないって、かわいそうだよね
南野柑奈
南野柑奈
(怖かった。人前では何も出来なくなって、その内周りから人が消えた。北川くんだって、きっと同じ。引くに決まってる)
そう思っていたのに、北川くんは教室にいる時と変わらない笑顔を見せる。
北川大輝
北川大輝
そっか。俺は、空は透き通るみたいな爽やかなイメージで、太陽はキラキラあったかい感じかな。別に、青とか赤じゃなくてもいいと思うけど。実は、太陽を赤って思うのって日本の他にはほとんどないんだよ
南野柑奈
南野柑奈
え?
北川大輝
北川大輝
だから、それだって思った色を塗っちゃえばいいよ。南野の見てる世界にしちゃえばいいじゃん。俺は、それが見てみたい
南野柑奈
南野柑奈
(初めて。私の世界を知りたいなんて。そんな人、今までいなかった。それにこの人、私がモノクロ症だって知っても、なんでもないみたいに……)
南野柑奈
南野柑奈
私の見てる世界は……漫画みたいな感じらしいよ。漫画って、誰が見ても白と黒なんでしょ?
北川大輝
北川大輝
それいいな。面白いよなー、漫画は。俺ね、ジャンプのあれが好き。知ってる?
南野柑奈
南野柑奈
(普通の会話みたい。普通の、同級生同士の……。私はずっと、そんな“普通”が欲しかった)
南野柑奈
南野柑奈
北川くんの好きな色は?
北川大輝
北川大輝
俺は、赤が好き
南野柑奈
南野柑奈
キラキラあったかい色なんだね
彼自身が言った、太陽の色。
南野柑奈
南野柑奈
(私には色が見えないけど、北川くんはキラキラあったかいから、きっと赤いんだろうな)
中学時代の私が、言えなかったこと。
ずっと、誰にも見えないように隠してきた。
南野柑奈
南野柑奈
(本当は、絵が描きたい。そんなことを言っても、誰にも理解されないから。でも、この人なら……)
南野柑奈
南野柑奈
北川くん、私……美術部に入りたい
北川大輝
北川大輝
うん。大歓迎
南野柑奈
南野柑奈
(北川くんなら、その太陽みたいな笑顔で……)

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