──U16型ウイルス。
今から20年前に発見されたこの新種のウイルスは、0歳から16歳までの子どもだけが発症する。
目、耳、手、足、記憶など。
感染者の体の一部に作用することが判明し、症状には個人差があるが、たったひとつの共通点がある。
それは、一度感染してしまえば最後、治療法はない。
命に関わることは無い代わりに、一生治ることはないというもの。
ウイルス発見後、ほどなくしてワクチンが開発され、投与が義務化されたことにより、事態は沈静化されていった。
……ただ一部の者を除いては。
私、南野柑奈の場合は……──
*
私は、転校先の高校の一年三組の教卓の前で、深々と頭を下げた。
担任となる先生が、私の名前をでかでかと黒板に記す。
多分、チョークの色は“白”。
黒板と言うからには、ずっと“黒”なのだろうと思っていたけど、それが“深緑色”だと知ったのはつい最近の出来事になる。
先生に指された席は、真ん中の一番後ろ。
その空席の隣には、男子。
笑顔が眩しくて、たじろいでしまう。
私は、人に関わるべきじゃない。
*
転校生がめずらしいのか、朝のホームルームが終わってから、私の席の周りには人がいっぱい。
隣の席の北川くんの周りにも、男女が溢れている。
これまであまり人と関わってこなかった私は、ただただ困惑してしまい、上手く話をすることが出来ない。
ここに人が集まるのは、私が転校した初日だからじゃない。
きっと、彼の周りはいつもそうなんだ。
たまたま隣の席になっただけ。
北川くんとは、この先関わることは無い。
……と、思っていたのに。
北川くんは、休み時間のたびに、私が口を挟む隙もないほどに話しかけてくる。
ニコッと笑って私に同意を求めるのは、同じく休み時間のたびに北川くんのそばにいた海谷かおりさん。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!