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第1話

『U16型ウイルス』
26,910
2019/04/26 04:01
──U16型ウイルス。

今から20年前に発見されたこの新種のウイルスは、0歳から16歳までの子どもだけが発症する。

目、耳、手、足、記憶など。

感染者の体の一部に作用することが判明し、症状には個人差があるが、たったひとつの共通点がある。

それは、一度感染してしまえば最後、治療法はない。
命に関わることは無い代わりに、一生治ることはないというもの。

ウイルス発見後、ほどなくしてワクチンが開発され、投与が義務化されたことにより、事態は沈静化されていった。

……ただ一部の者を除いては。

私、南野柑奈みなみの かんなの場合は……──


南野柑奈
南野柑奈
南野柑奈です。よろしくお願いします
私は、転校先の高校の一年三組の教卓の前で、深々と頭を下げた。

担任となる先生が、私の名前をでかでかと黒板に記す。
多分、チョークの色は“白”。
黒板と言うからには、ずっと“黒”なのだろうと思っていたけど、それが“深緑色”だと知ったのはつい最近の出来事になる。
南野柑奈
南野柑奈
(どうりで、黒にしては色が薄いと思った)
担任
南野の席は、一番後ろのあそこ
南野柑奈
南野柑奈
はい
先生に指された席は、真ん中の一番後ろ。
その空席の隣には、男子。
北川大輝
北川大輝
よろしく。俺、北川大輝きたがわ だいき
南野柑奈
南野柑奈
よろしく……
笑顔が眩しくて、たじろいでしまう。
南野柑奈
南野柑奈
(皆、最初だけ。私に本当の笑顔を向けてくれる人なんて……)
私は、人に関わるべきじゃない。


女子A
南野さん、前はどこの学校だったの?
女子B
転校って、親の仕事の都合とか?
南野柑奈
南野柑奈
あ、えっと……
転校生がめずらしいのか、朝のホームルームが終わってから、私の席の周りには人がいっぱい。
隣の席の北川くんの周りにも、男女が溢れている。

これまであまり人と関わってこなかった私は、ただただ困惑してしまい、上手く話をすることが出来ない。
北川大輝
北川大輝
あ、そろそろチャイム鳴るぞ。皆、戻れ~
男子A
お前、そういう変なとこは真面目だよな
女子A
またね、大輝くん
ここに人が集まるのは、私が転校した初日だからじゃない。
きっと、彼の周りはいつもそうなんだ。
南野柑奈
南野柑奈
(すごいな……。私とは、正反対のタイプ)
たまたま隣の席になっただけ。
北川くんとは、この先関わることは無い。

……と、思っていたのに。
北川大輝
北川大輝
南野さんってさ、普段どんなことしてんの?
北川大輝
北川大輝
この学校さ、廊下の別れ道めっちゃ多いから迷わないようにね
北川大輝
北川大輝
てか、良かったら案内しよっか?
北川くんは、休み時間のたびに、私が口を挟む隙もないほどに話しかけてくる。
海谷かおり
海谷かおり
こら、大輝~。あんまりしつこく話しかけたら、南野さん困っちゃうじゃん。ねぇ?
南野柑奈
南野柑奈
あ、いえ、そんな……
ニコッと笑って私に同意を求めるのは、同じく休み時間のたびに北川くんのそばにいた海谷かいやかおりさん。
海谷かおり
海谷かおり
校内の案内なんて、絶対同性の方がいいんだって
北川大輝
北川大輝
まあ、それはそっか
海谷かおり
海谷かおり
そうだよ。大輝は中学の時からお節介なの。誰にでも。ごめんね? 南野さん
南野柑奈
南野柑奈
は、はい……
南野柑奈
南野柑奈
(ふたりは、中学からの同級生? 気のせいかな。今、なんだか牽制をされたような……)

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