放課後になって、大輝くんは先ほどクラスの男子と一緒に教室を出ていった。
一緒に行く約束をしているわけではないけど、いつもふたりで美術室までの階段を上がっていたから、つい待ってしまう。
どんどん教室から人が減っていく中、凛ちゃんとなるみちゃんが私のそばに来た。
今日も美術室? 柑奈ちゃん、毎日違う絵描いてるよね。あれ、仕上げたりしないの?
あたし、最初の日に描いてた風景画に色塗ったの見てみたーい。コンクール近いんだよね? 柑奈ちゃんはどれを出すの?
えっと……
私は、元々コンクールに絵を出すつもりはなかった。
私に出来ることは、下描きまでだから。
色なんて、塗れない。
私の目には、見えない。
何も知らないふたりが、真っ直ぐな瞳で私を見ている。
(話したら、どうなるんだろう。ふたりも、今までの子みたいに……。それとも)
ふたりとも、ひどいよー。柑奈ちゃんに、色なんて塗れるわけないんだから
いつの間にかそこにいた海谷さんが、私の言葉を遮って間に割り込んでくる。
だって柑奈ちゃん、モノクロ症なんだもんね? 色が見えないんだから、それを塗るなんて無理だよ
(どうして海谷さんがそのことを……!? 私、大輝くんにしか……)
え……、モノクロ症って、U16ウイルスの?
柑奈ちゃんが? まさか……
ふたりが、信じられないものを見るように、私に目を向ける。
あれ? ふたりとも、知らなかったの? やだ、ごめん! 柑奈ちゃんと友達だから、てっきり聞いてるんだと思って
かおりちゃんには話したんだ……
知らなかったのって、うちらだけ?
違……っ、私……
あたし、柑奈ちゃんのことは友達だと思ってたよ。柑奈ちゃんはそうじゃなかったの?
そんなこと!
(そんなことないって、言いきれる? ずっと隠していたのは、私の方)
……
なるみ、……部活行こ
そうだね
拒絶するみたいに顔を背けるふたりに、怖くて手が伸ばせない。
ふたりの姿が教室から消える。
ほんとにごめんね? 柑奈ちゃん。大輝にも話してるくらいだから、凛となるみも知ってると思ってたんだぁ
(隠していたわけじゃない。大輝くんにだって、転校初日に明かしたくらいだし。でも……)
海谷さんは、どうして知ってるの? 大輝くんだけに話したってことまで、なんで……
本人に聞いたからに決まってるじゃん
大輝くんが? まさか……
(でも、じゃあ、何でこの人が知ってるの? 私の感染を知っているのは、この学校で大輝くんだけ。それは、つまり……)
えー? 柑奈ちゃん、大輝のことなんだと思ってたの? 自分にだけ優しくしてくれると思ってた? いるんだよね、自分が特別なんだって勘違いしちゃう子。大輝は誰にでもああなのに
(私のこのコンプレックスは、大輝くんにとっては簡単に人に話してしまえるようなことだったってこと?)
大輝、言ってたよ。モノクロ症の柑奈ちゃんはかわいそうだって
バカにしたように、海谷さんが口に手を当ててクスッと笑う。
頭が真っ白になる。
(大輝くんも、皆と同じなの? いつも笑顔を向けてくれて、本当は……)
あっ、ごめんね。意地悪するつもりで言ったんじゃないの。あたしは、これ以上柑奈ちゃんに嫌な思いして欲しくないって思ったから言ってるんだよ?
海谷さんの言葉は、少しも私の心に届かなかった。
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