第10話

『ふたりきりの時間④』
9,042
2019/06/24 04:09
北川大輝
北川大輝
そういや、俺がバスケ部だって誰かに聞いた?
大輝くんは、自分のキャンバスに向かいながら、質問を投げかける。
南野柑奈
南野柑奈
海谷さんだよ
北川大輝
北川大輝
なんだ、海谷か。たまに柑奈のこと聞いてくるし、あいつも柑奈と喋りたいんじゃないかな
南野柑奈
南野柑奈
……違うんじゃない?
南野柑奈
南野柑奈
(あの人が私を気にしていると言うよりは、大輝くんに近づく女子を警戒してるように見える。部活に来る前のあれも、どれだけ自分が大輝くんについて知っているかを聞かせたかったみたいな……)
南野柑奈
南野柑奈
あの……、大輝くんと海谷さんって、どういう関係なの?
北川大輝
北川大輝
関係? 関係とかいうほどのものもないけどな。中学の時バスケ部のマネージャーで、今は同じクラスにいる友達って感じ?
南野柑奈
南野柑奈
友達……
南野柑奈
南野柑奈
(きっと、海谷さんの方はそんな風に思っていない。彼女は、友達関係なんて望んでない)
ふたりのことを考えると、気持ちが曇っていく。
南野柑奈
南野柑奈
(私、なんでこんなにモヤモヤしちゃうんだろう)
北川大輝
北川大輝
気になる? 俺と海谷のこと
南野柑奈
南野柑奈
えっ!? 気になるってそんな……、っ変な意味じゃないよ!?
北川大輝
北川大輝
え、あ、うん。……変な意味って?
私の突然の大声に面食らった大輝くんが、目をパチパチと瞬かせる。
南野柑奈
南野柑奈
(変なことを考えているのは、私の方だ。私が、大輝くんを気にしているから)
──ガラッ。

美術室の扉が開いて、そこから覗くのはふたりの女の子。
凛
柑奈ちゃんいますか? あ、いたいた。大輝くんも
なるみ
なるみ
雨が降ってきたから、うちら部活中止になっちゃってさ。邪魔しないから、見学させてもらってもいいかな?
南野柑奈
南野柑奈
本当? もちろん! 嬉しい
凛
今日は、大輝くんとふたりだけなんだね
北川大輝
北川大輝
先輩たちは皆作品仕上げたんだってさ
なるみ
なるみ
えー? もしかして、せっかくふたりきりのところ、邪魔しちゃった?
南野柑奈
南野柑奈
そんなことないよ。人が多い方が楽しいから
凛
あっ、大輝くんの絵、ずいぶん仕上がってきたんじゃない?
なるみ
なるみ
うん、この前見たのより、すっごい色鮮やか。お花畑って感じ
ふたりは絶賛しつつも、やっぱり真ん中に描かれた女の子には気づかない。
南野柑奈
南野柑奈
(不思議……。私には、今でもハッキリと見えているのに)
凛
この桜とか特に、本物の写真かってくらい上手いよね。このピンクとか、よく見ると何色も混ざってるし。ね、柑奈ちゃん
南野柑奈
南野柑奈
う、うん……
私にも、大輝くんの絵は写真みたいにリアルに見えている。
だけど、ピンクが何色なのかは分からなくて、とっさにうなずく以外のことが出来ない。
中学時代の友達
『雑誌に載ってる新発売のコスメ可愛くない? この色のリップってめずらしいよね~』
南野柑奈
南野柑奈
『可愛い……? リップの色?』
中学時代の友達
『あー……、柑奈には分かんないもんね、色とか』
南野柑奈
南野柑奈
『ごめんね……』
中学時代の友達
『いいよいいよ、あたしこそ柑奈に聞いたのが悪かったんだし』
なるみ
なるみ
柑奈ちゃんは、今日は何描いてるの?
中学時代の記憶がフラッシュバックして固まってしまったけど、なるみちゃんの声でハッと現実に帰る。
南野柑奈
南野柑奈
あっ、ついさっき、大輝くんに木炭でのデッサンを教わってたところなの
凛
すごーい
南野柑奈
南野柑奈
(大輝くんのおかげで、仲良くなれた。楽しい。でも、だからこそ、仲良くなればなるほど言えなくなる。私が見ている世界のことは……)

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