第17話

『変わらない世界』
8,134
2019/08/12 04:09
次の日、重たい気持ちを抱えて登校する。

教室に入ってすぐに、ふたりで雑談をしていた凛ちゃんとなるみちゃんの姿が目に入った。
ふたりは私と目が合うなり、「行こう」と、目をそらして教室を出ていった。
南野柑奈
南野柑奈
(大丈夫、平気。元に戻っただけ。私は最初から、ひとりだったんだから)
うつむき加減に自分の席にかばんを置く。
大輝くんのかばん自体は机にかかっているものの、本人は教室内にいない。

ホッと息を漏らして、席に着いた。
南野柑奈
南野柑奈
(隣同士の席だし、時間が経てば嫌でも顔を合わせなければいけないけど……)





大輝くんは昨日みたいに遅刻ギリギリのところを、飛び込むように教室に入ってきた。
男子A
大輝、お前今日も遅刻
北川大輝
北川大輝
間に合ったって。遅刻じゃない。先生のこと階段で追いこしたし
男子A
それは反則だわ~
大輝くんはクラスメイトと笑いながら席に近づいてくる。

ドクンドクンと胸の音がうるさい。

ガタンと椅子を引く音が聞こえて、ビクッと体が強ばる。
南野柑奈
南野柑奈
……
北川大輝
北川大輝
……
うつむいていても、私たちの間に気まずい空気が漂っていることを感じる。

顔を上げられない。
大輝くんを見たら、泣いてしまいそうで。
北川大輝
北川大輝
担任
みんな、席に戻れー。ほら、戻れ
教室の扉が開いて、先生が出席簿を持ちながら入ってくる。
南野柑奈
南野柑奈
(大輝くん、今何か言いかけた? 気のせいかな……)
南野柑奈
南野柑奈
(辛いな、ここの席。大輝くんの隣は、いつも苦しい)
授業が終わって、私はすぐに教室を抜け出した。

授業が始まるギリギリに教室に戻って、終了のチャイムがなったらすぐに席を立つ。
それからは、ずっとその繰り返し。

大輝くんの顔を、少しでも視界に入れないように。

昼休みになって、私は弁当箱の包みを持って教室を出た。

いつもなら、教室の自分の席にいたけど……。

校舎の外に出て、人の気配がない裏庭に行って、ホッとため息をひとつ。

南野柑奈
南野柑奈
(昨日までなら、自分の席にいると凛ちゃんとなるみちゃんが来てくれたな……。大輝くんは相変わらず隣にいて、話しかけてくれて)
思い出すと涙がこぼれてきて、慌てて手の甲で目元を拭った。
南野柑奈
南野柑奈
(私、自分から離れたくせに、寂しいと思ってる……)
南野柑奈
南野柑奈
(大丈夫。今までが、おかしかっただけ。きっとすぐに、前みたいに戻れる。ひとりでも平気だった頃に)




それから一週間。

大輝くんは毎朝遅刻ギリギリの時間に教室に飛び込んできた。
毎日かばんは机に置いてあったから、教室じゃないどこかにいるということ。
南野柑奈
南野柑奈
(いつも何やってるんだろう。私にはもう、関係のないことだけれど……)
私は相変わらず、休み時間のたびにに席を立つけど、初めのうちは引き止めたがっているような声を漏らしていた大輝くんも、すでにそうはしなくなっていた。
南野柑奈
南野柑奈
(これでいいんだ。これで……)
痛む胸を、私は自分の手で押さえた。

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