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第5話

「たいさ」

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 大佐の口からごぼりと血が溢れた。内臓が破壊されたことにより、胃から食道を通って血が溢れたのだ。気道を確保させる為に少将は大佐の口の中に指を突っ込んで、大口を開けさせて血を吐き出させる。




「げ、ふ、」




 ごほごほと咳き込む大佐。既にその目は視界に入るものを区別できていない。ただ体温だけで、少将が自分の傍にいてくれていることを理解していた。

 人間が痛みを感じるのは、その危険から逃れる為だという。しかし危険も何も、もう大佐は死ぬ運命が決定づけられていた。確実に助からないのだ。

 だというのに、大佐の頭はガンガンに痛んでいた。もはや何処が痛むのかすら判らない。思考が定まらなくて、どうしようもなく寒気が襲う。安心する為だけに少将のことを呼ぼうとしたが、もう一度喀血してそれは叶わなくなった。

 舌が痙攣する。指先が冷たくなっていくのを感じる。


 軍人になった時から、既にこの時の覚悟はしていた。けれども今更になって恐怖を感じたのだ。それは人間として当たり前の反応だったけれど、大佐はそんな自分を恥じた。

 故に、人間としての尊厳は失ったとしても。



 軍人としての誇りは、絶対に失ってはならないと、そう思ったから。



 ──もう目が見えない。

 大佐はごぷ、と血を口内にいっぱいにさせながら哂う。少将がまたそれを吐き出させてくれる。擦れた喘鳴が鳴り、言葉を話すことなどできなかった。

 絶え間ない激痛により涙が止まらない。痛くて痛くてどうしようもない。


 大佐はゆっくりと、小刻みに震える腕を持ち上げた。


 少将が驚いたようにそれを見て、そして彼女の一挙一動を目に焼き付けんと、食い入るようにそれを見る。




「────────大佐」




 震えた声で、少将が言った。









 大佐は、手を掲げ、敬礼を行っていた。









 三席の男が、大佐が掲げた手を見て、ぼとりと手に持った包帯と止血剤を取り落とした。「たい、大佐ァッ! 大佐、大佐死んじゃ嫌です、大佐待って下さい!!」と叫ぶ。彼は自分より年下で女の上官を心より尊敬していた。


 ──暫しの別れだ。皆によろしく頼む。


 大佐は心の中でそう呟いた。三席の男が泣き叫ぶのすら聞こえていなかったが、多分そうだろうなと思ったからだ。そして少将にも呟いた。


 ──先にいって参ります。できれば、今後久しく、あなたとは会いたくない。


 茫然と腕の中で命が零れ落ちるのを、少将は見つめていた。









 大佐は笑って逝った。









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