[りょう視点]
あなたと出会ったのは真夏だった。
そろそろ秋も近づいてきて過ごしやすい気温になった。
あなたは寒いのが苦手なようで、外に出るといつもよりぴったりとくっつくのが可愛らしかった。
本人は無自覚でやってるからタチが悪い。
2人でコーヒーでも飲もうかって入った喫茶店でりょうが居る日は食べていい日なんだと言ってケーキを頼むのはいつものことだ。
でも食べ過ぎると罪悪感があるのか半分食べたら俺にくれる。
本当は生クリームが好きらしいけど、初めて外食をした時に俺がガトーショコラの生クリームを全部食べたから俺が生クリームを好きだと思っていつも横に添えてある生クリームだけは全部残してくれてた。
本当は特別好きでもない甘いクリームがいつもより美味しく感じる。
あなたは珈琲を飲みながら外を眺めてぼーっとしたりする。
きっと歌詞でも考えているんだろう。
沈黙が苦じゃないのも俺たちのいいところなのかも知れない。
こういうところを見ると、旅行に連れて行きたいなって思うんだけど休みがないから連れていけない。
色んな景色を見せてあげたいのに連れ出してあげられない。
夏の休みも結局撮影だったし。
それでもあなたは何も言わないし、それどころかいつのまにか日曜は休みを取ってくれるようになった。
ここまでしてくれる割には家の外とか人前ではやっぱりツンとしていて、大人のふりをしていた。
本当は笑顔が可愛くて優しくて照れ屋さんのくせに。
あなた「季節、変わったね。ずっと暖かいままが良かったなぁ。」
いつもよりも小さい声でそう言った。
なんで?と、聞くと、
あなた「一夏の恋だったらどうしようと思って。」
と、少しだけ笑って言った。
りょう「秋も冬も春も一緒だよ。来年も再来年もその先も。」
あなた「恥ずかしげもなくそういうこと言うんだから困るんだよなぁ。」
あなたは飲み終えたコーヒーカップの底を見つめて憂鬱そうにそう言った。
何をそんなに不安に思うのか、よく分からないけど離すつもりのない好きな子が憂鬱なのは嬉しい出来事ではない。
りょう「なんか不安な事あった?」
あなた「んーん、いつも長く付き合ったことないから不安になるだけ。」
[いつも]って言葉が嫌いになりそうだ。
俺の前に何人と付き合ったんだろう。
何人に2人だけの笑顔見せて優しくして歌を作ってたんだろう。
そんなこと聞くほど子供じゃない。
りょう「じゃあ俺が初めてずっと一緒にいれる男だ。」
精一杯の強がりと本音を込めたこの言葉で少しだけ切なそうだけど、あなたが嬉しそうに笑うから、俺も少しだけ安堵した。
あなた「…いつも初めてをありがとう。」
不意に見せるへにゃっとした笑顔と、言葉にドキッとした。
改めて好きだと自覚する。
俺との初めてがどれなのか分からないけど、また[いつも]って言葉を好きになれそうだ。
嬉しそうな顔をして、
あなた「もう一杯コーヒー飲んでから帰ろう。」
って、言うからまたお互い別のものを頼んだ。
やっぱりいつも通り俺が選んだやつの方が美味しいって言って笑うから交換した。
もうあなたの味の好みなんて分かってるからいつもあなたの好きそうなもの選んでるんだよ。本当は。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。