[りょう視点]
俺は毎日あなたのいるbarに通い詰めた。
あの頃はまだ別の仕事もしてたからくたくた
だったけど帰ってすぐにシャワーを浴びて、
身だしなみを整えて向かった。
もう2週間がたつ。
もうほぼ毎日会って毎日少しずつ話してるのに
連絡はない。
りょう「連絡する気にはまだならない?」
あなた「こう見えて結構忙しいの。としみつにもあんまり連絡してないし。」
いつも答えは同じだった。
出会ってからぴったり1ヶ月くらいの時、
まだ外は暑くてそれでもバレるわけにはいかない
から完全防備で仕事をしてた。
意識が朦朧とすることもあったけど、
仕方ないことだと思いそのまま続けていた。
でもその日に限って40度近い気温で身体が
限界だった。休みもなくて睡眠時間も数時間。
倒れそうになった時、目の前にあなたが居た。
ちょうど休憩が始まって座り込んだ。
意識は一瞬で遠のいた。
気付けば見知らぬ家でおデコには冷却シートと
頭の下には氷枕があった。
ベットの横には背を向けてタバコを吸うあなた
が居た。
状況が飲み込めずにいると、
あなたが振り返った。
あなた「起きたなら声かけてよ。」
りょう「ごめん、なにこれ。」
あなた「倒れたから、病院連れてって点滴打って今ここ。職場の人も忙しそうだったし私も暇だったから代わりに連れてったの。工事してたとこ私の家の近くだし、一応知り合いだし。」
いつも通りの冷たい顔でそういった。
りょう「本当ごめん。ありがとう。今出るから。」
あなた「今日は仕事戻らないで寝てていいって。もう少し居なよ。豊田市に住んでるんでしょ?私の住んでるとこ多分あなたの家から離れたとこだろうし体調戻ったら家まで送ってくよ。」
今度は少し笑って経口補水液を渡された。
りょう「わざわざ買ってくれた?」
あなた「コンビニ寄ったら見かけたから。別についでだから。助けたのもそれも。」
そう言ってた。
一人暮らし用の小さい冷蔵庫の中に普通氷枕なんてあるんだろうか、冷却シートなんて常に常備してるタイプなのか、経口補水液なんてコンビニにあったっけ。なんてそんな無粋なことは聞かなかった。ただ一言ありがとうと笑っておいた。
テーブルの上には溶けて固まったであろう変形したチョコレートがあった。
俺のこと助けてる間に溶けたんだろうとすぐに分かった。
目が覚めて1時間が過ぎると体調は戻って動けるようになった。あなたにもう帰るよと伝えると車出すから乗って道案内してと言われた。
車の目の前まで来た時、財布忘れたから乗っててと言われて乗った車の助手席には氷枕や冷却シートのレシートと俺が倒れる前に買ったであろうチョコレートのレシートがあった。
見なかったふりをしてゴミ箱に捨てた。
あなたと出会って初めて本気で好きかもしれんなって思ったのはこの時だった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!