[りょう視点]
真夏のクラブ、軽く雨が降った蒸し暑い夜だった。
りょう「一緒に飲まん?向こうに友達もいるし!」
あなた「別に、男なんてたくさん居るんで。」
これがあなたとの最初の会話だった。
こんなに冷たくあしらわれたのは初めてだった。
金色のベリーショートで肌が白くてスタイルも外国の人みたいなナイスバディ。
身長もきっと170はある。
ヘソの出るTシャツにぴったりとしたジャージ、
いかにも生意気そうな顔、うなじの辺りにあるタトゥー、濃い口紅。
…お世辞にもタイプじゃなかった。
でもなぜだか目に止まって声をかけた。
それがこの結果。
腹立つなーあの女。と思いつつも気付けば目で追ってた。
入口の辺りで立ってタバコを吸ってる姿はきっと誰が見てもカッコいいと思うんじゃないか。
タバコが嫌いなはずな俺もそう思った。
しばらくすると見慣れた顔がその女に話しかけていた。
りょう「…としみつやん。」
慌てて近付いて声を掛けた。
りょう「としみつ!」
としみつ「おー!りょう!」
あなた「あ、さっきの。」
としみつ「え、ここ知り合いなの?」
りょう「さっきナンパ失敗した!」
としみつ「え!我がメンバーのイタリア人の誘い断ったん?!」
あなた「いや、だってとしみつ会いに来るって言うから知らない人と飲んでたらアレじゃん。」
りょう「え?彼女?」
としみつ「ちがうちがう。笑 この子音楽やってて、22時にbarで歌うから待ち合わせようって言ってただけ!」
りょう「俺も行きたい!」
としみつ「いい?」
あなた「いいよ。今日はきっと暇だから。さっきはごめんなさい、としみつがYouTuberなの知ってたけど顔と名前までは知らなかったから。急に声かけてきたやつだと思ってた。」
謝られて驚いた。いやこちらこそ、と謝り返して、このあと抜けると友達に言って3人で店を出た。
としみつ「今日なに歌うん?オリジナル?」
あなた「そう、1年ぶりに恋のうた作った。」
としみつ「そういえば聞いたことないわ。」
あなた「知り合ったの3ヶ月前だもんね。」
仲よさそうに話す2人を横目で見てて思い出した。ちょうど3ヶ月くらい前にとしみつが面白いこと知り合ったって言ってたこと。
りょう「バンド組んでるとかなの?」
あなた「今は1人。」
そういうと初めて少し笑ってくれた。
冷たい表情だったくせに笑うと急に幼く見えた。
としみつ「バンド解散しちゃったしな、でももともと1人でも活動してたしあんま変わんなくない?」
あなた「あのバンドのベースと1週間前まで付き合ってて別れたから久々に恋の歌作ったんだ。」
としみつ「え!そうなん?彼氏いたんだ!」
あなた「居たよ、しっかり大好きだった。」
ドヤ顔してそう言い切った姿もかっこいいと思った。きっと芯がしっかりしてる人なんだろうと思った。
あなた「ついたよ、ここ。バイト先。」
見たことのないbarだった。店内は6割くらい埋まっていてあなたが入ると一斉にあなたに声をかけた。
あなた「ほら、岡崎市のスーパースター2人連れてきたから!」
そうマスターらしき人に言うとここに座ってと案内された。
22時を少し過ぎた頃にあなたがギターを持って弾き始めた。
吸い込まれそうなメロディーと見た目にはそぐわない、優しい女の子というイメージの歌詞。
「星の数ほどいる中から見つけてくれたと思ってたけど君が欲しかったのは大きくて丸い月だった。」
途端にさっき言われた言葉が重く感じた。この子にとって俺はたくさんある星で、その彼氏が月だったんだと思うとムカついた。
あなたがこの歌を切なそうな顔で歌うのも無性に腹が立った。
りょう「としみつ、あの子のこと好きだったりせん?」
としみつ「面白いしきっと売れると思うから友達として応援してるだけ。狙ってるの?」
りょう「落としたい。月になる。」
としみつ「月…?」
どうやらとしみつは歌詞と俺の気持ちをわかってないようだがあえてスルーした。
一曲歌い終えるとお客さんが口々にたまに恋愛の曲もいいなと笑顔になった。
ペットボトルのお茶を飲み干したと思うと俺らの席に来た。
あなた「注文は?」
としみつ「同じので、」
りょう「じゃあ、それもうひとつ。あと、連絡先知りたい、君の。」
あなた「ごめんなさい、男友達なんてもう要らないの。」
りょう「いや違う、月になろうと思って。」
そういうと笑って、私が会いたいと思ったらとしみつに連絡先聞くよと言った。
ストレートに行くのはダメか。
鼻歌交じりにさっきの歌を歌うあなたは誰よりも女の子で、さっきクラブで見たイメージとは変わっていた。
俺が月になるんじゃなくてこの子が俺の月になるかも知れんなと思ってしまった。不覚にも。
家に帰ったのは、
23時を少し過ぎた頃だった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。