第41話
NO,41 謎の青年
私はリビングのドアを静かに開けた。そしてそこには、あの人を合わせて4人いた。
そんな他愛もない話をあの人としているのはジェルさんだった。他のみんなも相づちを打ったり、あの人が作った料理を黙々と食べているものもいる。
そう言い、自分のとなりに座れと急かしてきた。
私は言う通りに座ると、ハンバーグにナイフを入れた。
ひなきの話を聞くと、まだ釈然としない。「ヒロイン」、「悪女」。それにブレスレットは取られたまま。
それに、これまではあんな風に敵意をむき出しにしてくることは一度もなかった。
あの人の言葉に疑問を抱いた。
ひなきは両親への電話は2日に一度はする。これはまぁまぁの頻度ではないだろうか?あまりないというには矛盾だと思う。
冷蔵庫にある烏龍茶を取りに行こうと席を立ったときだった。急に眠気に襲われ、私は床に倒れこんだ。
どうにか閉じようとするまぶたをこじ開けて周りを確認した。みんなか同じように眠っている。息はしているようだ。
どういうことだろう。あの人、なにか盛ったのだろうか……
声を大きくしたが、本当は目を開けているのも辛い。強いものを使ったと言うことはなにか盛られたのは確定だろう。
私の頬にあの人の手がそえられる。
「おやすみ。」
私の目はゆっくりと開いた。ベットから上半身を起こす。
カーテンを閉め忘れた窓から見えるのは三日月だった。
しばらくして目が暗闇に慣れ、家具などが見えるようになると、部屋をぐるりと見渡した。
いつもの私の部屋だ。しかしベットから見て左側の壁に見慣れない服が掛けてある。
今日は中学の卒業式だった。友達が片手で数えられるほどしかいない私にとってはどうってこと無いイベントだった。
それにどちらかというと卒業への悲しみよりも、高校生になるということへの不安の方が大きかった。
小学生から同じ学校で仲が良かったあかねだが、高校は別々の高校になってしまった。
今回こそはっ、とひなきと別々の高校に通おうと努力して、難関高校の一つに合格したのだが、それを軽々とひなきはついてきた。
このまま大学生になっても、社会人になってもひなきと比べられていくのかな。それを超えるように努力しないといけないのかな。
ちらりと時間を確認する。
不思議だった。六時間は寝た気がするのに、就寝してから二時間しか経っていないのだ。そしてひどく喉が乾いていた。
私はベットから立ち上がり、家具に足をぶつけないように気を付けて電気のスイッチを押した。
カチッ、カチッとなんども押すが電気はつかない。別に電気なしでも良いかと、ドアノブを回す。
私は違和感に気づき始めた。電気がつかない、ドアが開かない。
危険な気がする。私はガラスを割ることにした。 そしてまたおかしい部分が出てきた。小物が一切無いのだ。人一人じゃ持てないような家具以外は全て、無くなっていた。
違和感が確信へと変わる。
ドアの前にへたりと座り込む。正面には窓があり、三日月が雲に隠れたのか部屋が真っ暗になる
いつも寝るときはお守り代わりにつけている、みんなにもらったブレスレット。手首にはそれがついていなかった。
混乱しはじめたその時、突然パリーンッとガラスを割る音がして、透明な破片が飛び散った。
窓ガラスを割ったと思われる人物は、全身を黒で包んでいて、頭にはフードを被っていた。声からして男だろう。
その人が舌打ちをすると、下の階で話し声が聞こえ始め、階段を上がってくる音がした。
私は混乱しながらも必死なその人から差し出された手を取った。
乱暴に鍵を開ける音がすると同時に窓から逃げ出した。
突然頭にかかったもやが取れた気がした。
手を繋いでない方の手でくしゃっと頭を撫でられた。
手を引かれて、駄菓子屋の影に入った。
そう言い、その人が指差した先には、血まみれになった私の足があった。
足に包帯を巻きながらその人は言う。
その人が駄菓子屋の奥に行くと、話し声が聞こえてきた。その人はビン2本と、靴を一足持ってきた。
私は冷えたラムネを受け取った。
その人は、すぐに飲み終えたラムネのビー玉を取り出しながら言う。
私が邪魔にでもなって殺そうとでもしたのだろうか。
私は足をプラプラさせながら笑う。
そう言いながら遠くを見るその人は、何を考えてその言葉を発したのだろうか。
また差し出された手をとり、手を繋ぎ歩く。
この人が駄菓子屋の奥から持ってきた靴はこの人の小さくなってはけなくなった靴らしい。
でも、とても大きい。私は女でも足が小さい方だからだろう。
それから、マンションまでは世間話とか恋ばなとかで盛り上がった。
その人は暗闇に溶けるように去っていった。