第5話

5話 黙ってなんていられません
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2022/08/29 11:00
 窓から見える外の景色が、だんだんと都会からのどかな風景へと変わって行く。
 電車の座席に並んで座ると、レオちんは少しずつ、彼の身の上に起きた出来事について話し始めた。
レオ
レオ
俺の家、実は結構厳しいんだよね。勉強も部活もやるならちゃんとやりなさいって感じの
(なまえ)
あなた
そうなんだ……じゃあ高校時代歌い手に憧れてたっていうのも、家族には言ってない?
レオ
レオ
無理無理! そんなこと言ったら怒られるし
レオ
レオ
あとは実際、勉強より身体動かす方が好きだったって言うのもあるんだけどさ
(なまえ)
あなた
だからこっちの体育大学に進学したと……
レオ
レオ
そう。母親は最後まで地元を離れるのを反対してたから、結局実家飛び出すみたいな感じになっちゃって
 普段の明るさには似つかわしくないレオちんの曇った表情が、事の厄介さを物語っている。
(なまえ)
あなた
じゃあ、お母さんはレオちんの動画見てびっくりしただろうね
レオ
レオ
うぅ……
(なまえ)
あなた
まぁ、本当は私にも相談して欲しかったけどね
レオ
レオ
それは悪かったと思ってる! でもこれは俺の家の事情だし、こんなことにあなたさんを巻き込みたくなかったし……
 それに、と気まずそうに視線を彷徨わせ、レオちんはぽつりと呟いた。
レオ
レオ
あなたさんに格好悪いところ、見せたくなかったし
(なまえ)
あなた
レオちん……
 少しだけ傷ついたような表情に、心の中がちくんと痛む。
 マネージャーとしてレオちんを守りたい気持ちはあるけれど、彼にも彼なりのプライドがあるはずだ。
(なまえ)
あなた
でも……やっぱり相談して欲しいな
レオ
レオ
え?
(なまえ)
あなた
だって私はレオちんのマネージャーだけど、ファンでもあるから! 
(なまえ)
あなた
活動ができなくなっちゃうのはもちろんだけど、もし大学まで辞めさせられることになっちゃったら悲しいよ
レオ
レオ
あなたさん……
 少しだけ驚いたようにこちらを見つめるレオちん。
 やがて、彼は安心したようにふわりと笑った。
レオ
レオ
あなたさんは優しいね。俺の問題なのに、こんなに必死になってくれるなんて……
(なまえ)
あなた
もちろんだよ。レオちんも悩んだら一人で解決しようなんて思わないで。マネージャーである私や社長のアキ姉がいることを忘れないでね
レオ
レオ
うん。それに……俺、もっとあなたさんのこと信頼しなくちゃだよね。俺達、二人で配信頑張ってる訳だし
(なまえ)
あなた
そう思ってくれたら嬉しいな。もし必要なら、私もご家族にちゃんと責任持って説明するし!
レオ
レオ
あはは、頼もしい。でも……本当にありがとう
 こちらへ向けられた優しい笑顔に、うっかり頬がじわりと熱を帯びる。
 マネージャーになったとはいえ、いまだにパソコンの画面越しでないと彼の笑顔は心臓に悪いのだ。
レオ
レオ
……あれ、あなたさんなんか顔赤い。俺、変なこと言った?
(なまえ)
あなた
い、言ってないよ! ただ心がちょっとしんどくて
レオ
レオ
うぅ……やっぱそうだよね。人の実家に行くとかメンタルやられちゃうよね……
(なまえ)
あなた
いやいや、そういう意味じゃなくて!
 人気のない車内に、私達の声に混ざって次の停車駅が告げられる。
 私達を乗せた電車は、ぼんやりと灯りをともして線路を走って行った。

 *   *   *
到着したレオちんの地元は、人もまばらなのどかな町だった。
駅からバスに乗り、さらに十数分。
辿り着いた住宅街を歩いて行くと、やがて『笹浦』と表札の掛かった大きな一軒家が現れた。
(なまえ)
あなた
すごい……レオちんって何人家族なの?
レオ
レオ
え、四人だよ? 父親は単身赴任中だから、今ここに住んでるのは二人だけだけどね
(なまえ)
あなた
そ、そうなんだ……
思わず呆気に取られて家を見上げる私の横で、レオちんはやや緊張気味にインターホンを押す。
???
……はい
レオ
レオ
……ただいま。怜央だよ
数秒の沈黙ののち。
ガチャリと玄関のドアが開かれ、私達の目の前に現れたのは――
冴子
…………
…………
レオ
レオ
た、ただいま。母さん、葵……
どこかレオちんの面影を感じる上品な佇まいの女性と、背後には学ラン姿の男の子が見える。
(なまえ)
あなた
(この方がレオちんのお母さん……)
真正面からこちらを睨みつける『お母さん』の迫力に、思わずごくりと喉が鳴る。
どうやら私は、想像以上に厄介な出来事に巻き込まれてしまったようだ。

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