窓から見える外の景色が、だんだんと都会からのどかな風景へと変わって行く。
電車の座席に並んで座ると、レオちんは少しずつ、彼の身の上に起きた出来事について話し始めた。
普段の明るさには似つかわしくないレオちんの曇った表情が、事の厄介さを物語っている。
それに、と気まずそうに視線を彷徨わせ、レオちんはぽつりと呟いた。
少しだけ傷ついたような表情に、心の中がちくんと痛む。
マネージャーとしてレオちんを守りたい気持ちはあるけれど、彼にも彼なりのプライドがあるはずだ。
少しだけ驚いたようにこちらを見つめるレオちん。
やがて、彼は安心したようにふわりと笑った。
こちらへ向けられた優しい笑顔に、うっかり頬がじわりと熱を帯びる。
マネージャーになったとはいえ、いまだにパソコンの画面越しでないと彼の笑顔は心臓に悪いのだ。
人気のない車内に、私達の声に混ざって次の停車駅が告げられる。
私達を乗せた電車は、ぼんやりと灯りをともして線路を走って行った。
* * *
到着したレオちんの地元は、人もまばらなのどかな町だった。
駅からバスに乗り、さらに十数分。
辿り着いた住宅街を歩いて行くと、やがて『笹浦』と表札の掛かった大きな一軒家が現れた。
思わず呆気に取られて家を見上げる私の横で、レオちんはやや緊張気味にインターホンを押す。
数秒の沈黙ののち。
ガチャリと玄関のドアが開かれ、私達の目の前に現れたのは――
どこかレオちんの面影を感じる上品な佇まいの女性と、背後には学ラン姿の男の子が見える。
真正面からこちらを睨みつける『お母さん』の迫力に、思わずごくりと喉が鳴る。
どうやら私は、想像以上に厄介な出来事に巻き込まれてしまったようだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!