リビングに通され、私達はレオちんのお母さんである冴子さんがキッチンから戻って来るのを待っている。
居心地悪く席につく私達の横では、ソファに寝転がる男の子が退屈そうにスマホをいじっていた。
ちらりと視線を向けた私に気付いたように、レオちんは小声で耳打ちする。
お盆を手に戻って来た冴子さんは、明らかにイライラした様子で湯呑みを私達の前に置く。
目を三角にする冴子さんの前で、困ったように首を傾げるレオちん。
しばらく考え込んでいたレオちんは「それだ!」と、ハッとした表情に変わる。
綺麗なラインを描く眉をひそめ、冴子さんは私の方にも厳しい視線を向ける。
激しい言い合いを繰り広げる二人を前に、出されたお茶すら手にする勇気が出ない。
厳しく言い放った冴子さんの言葉に、場の空気が凍り付く。
さすがのレオちんも今の一言は癇に障ったようで、ぴくりと肩が反応した。
このまま成り行きを見守るばかりでは、親子喧嘩の収拾がつかない。
レオちんが反論をする前に、私は慌てて二人の会話を遮った。
とにかくレオちんの活動を、ファンの声を、直接見てもらわなければ始まらない。
私はかばんに入っていたタブレットでレオちんのチャンネルを開き、大急ぎで動画を再生したはいいけれど――
画面を見るなり表情を強張らせたレオちんに、一瞬で背筋が凍る。
今よりもちょっと野暮ったいヘアスタイルに、今よりもちょっと低い音質の配信。
うっかり操作を間違えた私は、(個人的に推し配信としてまとめていた)プレイリストを古い順に再生していたのだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!