第6話

6話 取り返しがつきません
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2022/09/05 11:00
レオ
レオ
…………
(なまえ)
あなた
…………
リビングに通され、私達はレオちんのお母さんである冴子さんがキッチンから戻って来るのを待っている。
居心地悪く席につく私達の横では、ソファに寝転がる男の子が退屈そうにスマホをいじっていた。
ちらりと視線を向けた私に気付いたように、レオちんは小声で耳打ちする。
レオ
レオ
あいつ俺の弟のあおい。理系でいつもパソコンばっかいじってんの
配信ばっかしてる兄貴に言われたかねーよ
レオ
レオ
うそ、葵もしかして反抗期!? 中学生の頃はあんなに可愛かったのに!
冴子
怜央! あんたどうして呼び出されたか分かってるの!?
(なまえ)
あなた
(き、気まずい……)
お盆を手に戻って来た冴子さんは、明らかにイライラした様子で湯呑みを私達の前に置く。
冴子
あんたのこと、利佳ちゃんのお母さんから聞いたわよ
レオ
レオ
え? 利佳ちゃんって中学まで一緒だった?
冴子
ええ
レオ
レオ
利佳ちゃん、まだ地元にいるんだ
冴子
そうよ。駅前の本屋さんでアルバイトしてて……って、そんな話をしているんじゃないわよ!
冴子
急に怜央くんすごいわねとか言われて、恥ずかしいったらなかったんだから
目を三角にする冴子さんの前で、困ったように首を傾げるレオちん。
レオ
レオ
利佳ちゃんなんて全く連絡取ってないよ。俺そんなに有名になってたってこと?
(なまえ)
あなた
それかレオちんが誰かに話したのが、どこかでその利佳ちゃんにまで繋がったんじゃない?
レオ
レオ
うーん……
しばらく考え込んでいたレオちんは「それだ!」と、ハッとした表情に変わる。
レオ
レオ
タツヤ! 高校時代の友達だけど、あいつもそこの本屋でバイトしてた!
(なまえ)
あなた
地元ってそういうことあるよね……
冴子
怜央。あんたがどうしてもあの大学に通いたいって言うからお母さんだって折れたのに……
冴子
真面目に大学生をやっていると思ったら訳のわからないことばかりやって、お父さんにどう説明したらいいの!?
綺麗なラインを描く眉をひそめ、冴子さんは私の方にも厳しい視線を向ける。
冴子
それに何!? 報告もなしに女の子連れて来るなんて!
レオ
レオ
だからさっきも言ったじゃん! あなたさんは俺の事務所のマネージャー! いつもお世話になってるんだから失礼なこと言わないで!
 激しい言い合いを繰り広げる二人を前に、出されたお茶すら手にする勇気が出ない。
冴子
とにかくそのふざけた活動を止めないと、今すぐこっちに帰って来てもらうから
レオ
レオ
厳しく言い放った冴子さんの言葉に、場の空気が凍り付く。
さすがのレオちんも今の一言は癇に障ったようで、ぴくりと肩が反応した。
(なまえ)
あなた
(まずい……)
このまま成り行きを見守るばかりでは、親子喧嘩の収拾がつかない。
レオちんが反論をする前に、私は慌てて二人の会話を遮った。
(なまえ)
あなた
あの! レオち……怜央くんはふざけてなんかないです!!
レオ
レオ
あなたさん!?
(なまえ)
あなた
怜央くんがたくさんの人を笑顔にしてること……私はご家族にもちゃんと知っていただきたいです
冴子
何よあなた。人の家の事情に首突っ込まないでくださる?
(なまえ)
あなた
すみません! でも本当なんです! 遊びの配信だけじゃなくて、ちゃんと地域貢献の活動とかもしてて――
とにかくレオちんの活動を、ファンの声を、直接見てもらわなければ始まらない。
私はかばんに入っていたタブレットでレオちんのチャンネルを開き、大急ぎで動画を再生したはいいけれど――
レオ
レオ
『わんばんこ~! 今日も見に来てくれてありがと~! あ、やばい洗濯物映ってる!』
レオ
レオ
あなたさん、それ……
 画面を見るなり表情を強張らせたレオちんに、一瞬で背筋が凍る。
レオ
レオ
『今日は実家から持って来たゲームを久しぶりに遊んでみようと思います! うわー、これ懐かしいな~』
(なまえ)
あなた
(しまった……!!)
今よりもちょっと野暮ったいヘアスタイルに、今よりもちょっと低い音質の配信。
うっかり操作を間違えた私は、(個人的に推し配信としてまとめていた)プレイリストを古い順に再生していたのだった。

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