第25話

スケベスポット第1位、遊佐くんの腕の中
5,485
2019/03/22 09:06

カチャリ。


遊佐くんは無言のまま、後ろ手で部屋に鍵を掛けた。

心美
心美
ゆ、遊佐くん?
あのさっき、初恋がどうとかって
話してたけどもしかしてっーー
遊佐
遊佐
黙って
心美
心美
え?!
なに……んむっ

突如、塞がれた唇。


眼の前には遊佐くんの長いまつげ。

遊佐くんの唇からジワリと熱が伝わり、頭が真っ白になった 。
スケベ心
スケベ心
わっしょーーーーい!!

真っ白な頭の中でスケベ心たちがわっしょいしながら駆け巡る。


ちゅ…


濡れた音と共に離れた遊佐くんの頬は赤く色づいて、お色気の暴力。

溢れた鼻血がまだ熱の残る唇をたらりとなぞった。
遊佐
遊佐
好きだ

耳に響く低くかすれた声。
心美
心美
(あれ……今の……キス? す、好き?!嘘だ。きっと夢!すごく幸せな夢だ!)
遊佐
遊佐
……おい

でも夢にしては遊佐くんがリアル……。
ほら、お尻だってこんなにーー。



ムニッ
遊佐
遊佐
いって!
心美
心美
(この弾力……夢じゃない!
キスも、好きも、現実?!)
遊佐
遊佐
もしかして、怒ってんのか?
…悪かった。風邪移ったらごめん
心美
心美
そ、そんな!
遊佐くんの風邪なら大歓迎だよ!
逆にうつしてほしいぐらい、口移しで!

思わず飛び出た言葉にはっとする。
心美
心美
  待って今の無し!!
(何言ってんの、私のバカ!!)
遊佐
遊佐
もう、おせーよ

蠱惑的な笑みを浮かべる遊佐くんに顎をすくい上げられる。

彼の潤んだ瞳に私が映る。

そして顔が徐々に近づいて。
心美
心美
(……あ、また……キス)



ドン!

ドン!


ドン!!!


ヒカル
ヒカル
おい!!理人、ドア開けろ!
話はまだ終わってない!
遊佐
遊佐
……くそ
心美
心美
(……あと少しだったのに!)
遊佐
遊佐
今、大事なとこだってのに!
心美
心美
(キス、遊佐くんにキスしたい……)

ドアの向こう側、
弟に呼ばれて渋々退散するヒカル会長。
そんなのどうだっていい。


私の頭の中は“キス”の二文字で埋め尽くされた。
心美
心美
(キスしたい!!)



ちゅ!



遊佐
遊佐
…わ!


……は!! 体が勝手に!!
心美
心美
(私、なんてことを……)
心美
心美
(遊佐くんのほっぺにキスなんて!遊佐くんドン引きだ…こんなのただの痴女。……おまわりさん、私です)

呆れ顔でため息を吐く遊佐くん。

私は独房に入る覚悟を決め、目を閉じた。
遊佐
遊佐
もうお前可愛すぎ
心美
心美
え、あれ?

気づけば私は彼の腕の中にいた。
心美
心美
え、あ、遊佐くんダメ!
私はこれから警察に!!

身を捩ると更にぎゅっと抱きしめられ、
むぎゅうと遊佐くんの首筋に顔が埋まる。
心美
心美
(きゃあああ!ダメ!!遊佐くんの首筋ってこんなにもいい匂いがするの?!思い切り深呼吸したい!)
心美
心美
(スケベスポット第1位は遊佐くんの腕の中だったんだ……!)
心美
心美
ダメ、遊佐くん!!
このままじゃ私、私
遊佐
遊佐
……そうだな
その前に、ちゃんと言っておきたい
ことがある
心美
心美
え?
スケベ心
スケベ心
その前?
……この後なにするつもりだ?!
スケべ心
スケべ心
そんなの決まってる!
……急いで赤飯だ!

スケベ心たちは何やら忙しない。
でもそれとは真逆に、遊佐くんの顔は凄く真剣。
遊佐
遊佐
小学生の頃からずっとお前が好きだった
遊佐
遊佐
でも俺は、好きの伝え方を間違って
お前をいじめた
心美
心美
やっぱり……
遊佐くんがりっくんなの?
遊佐
遊佐
ああ
でも好きだからって
俺がしたことは許されない
遊佐
遊佐
いや、許さないでほしい
心美
心美
遊佐
遊佐
俺は中途半端な気持ちじゃなく
真剣にお前と付き合っていきたいから
心美
心美
私だって遊佐くんと真剣にっ……

スケベ心がじっとこちらを見つめている。

心美
心美
(あれ……真剣って何?)
心美
心美
(この気持ちは確かに恋のはず。……でも触れたいし、お尻揉みたい、遊佐くんとあんなことやこんなことしたい!)
心美
心美
(私の脳内、スケベばっかりだ……)
遊佐
遊佐
おい、どうした?

遊佐くんがぐっと顔を近づける。
心美
心美
(ち、近い!鎖骨が綺麗……って
言ってるそばから!)
心美
心美
(そんな……真剣交際を申し込まれたばかりなのに、私が望んでるのはもしかして不純異性交遊なの…?!)

ドン!


ドン!


ドン!!
心美
心美
(真剣交際…不純異性交遊…)
遊佐
遊佐
ったく、またかよ!
心美
心美
(真剣に不純異性交遊…あれ?あれ?)

遊佐くんが苛立ち半分にドアを開けた途端、モクモクと煙が立ち込める。

まるでオーバーヒートした私の頭の中みたい。
遊佐
遊佐
うわ!なんだよこれ!!
陸
ヒカルお兄のホットケーキ爆発した!!
渚
爆発した!!

煙と走り回る双子たちで廊下は大惨事。
遊佐
遊佐
くそ、ちょっと待ってろ

取り残された私は呆然とただ煙を眺めていた。
心美
心美
(遊佐くんの気持ち、ちゃんと受け止めたいのに頭の中はスケベばっかり)
スケベ心
スケベ心
何?呼んだ?





パァン!!


心美
心美
え……

煙の中から現れたのは遊佐くんのお尻みたいに
揉みごたえがありそうなセイウチ。

しかし、手にはライフル。
その風貌は、まるでどこかの殺し屋だ。
心美
心美
ひ!!
リセイウチ
リセイウチ
安心せえ
ワシは嬢ちゃんの理性の化身、
リセイウチや
心美
心美
理性……?
リセイウチ
リセイウチ
せや。大事なときに、
スケベが邪魔しとんのやろ?違うか?
心美
心美
…はい
リセイウチ
リセイウチ
そのままじゃ、
あの男の可愛い彼女には一生なられへん
心美
心美
え?!
リセイウチ
リセイウチ
大丈夫や。ワシに任せとき

そう言って、リセイウチはニヒルに笑う。
心美
心美
お願いします!私、遊佐くんの可愛い
彼女になりたいんです!遊佐くんと真剣に不純異性交遊を…



パァン!!




ライフルの銃声が響く。
心美
心美
ひ?!

リセイウチは私の心臓めがけライフルを構えた。
リセイウチ
リセイウチ
お前の中のスケベ心を片っ端から消す!
もっときばらんかい!!
お前の中のスケベを出し切るんや!
心美
心美
は、はい!!
心美
心美
(遊佐くんのお尻…、遊佐くんの鎖骨…、遊佐くんの腹筋…!!!)
スケベ心
スケベ心
これからは触りたい放題!
スケベ心
スケベ心
お尻揉み放題!!
スケベ心
スケベ心
スケベ解放!!
スケベ心
スケベ心
ビバスケベ!!


パァン!


パァン!


パァン!


パァン!

次々と生まれ出るスケベ心達はリセイウチのライフルに撃ち抜かれ、キラキラと消えていく。

徐々に、少しずつ、
私の中からスケベ心が消えていく……。
心美
心美
うっ
心美
心美
(あれ?なんだか胸が苦しい……)

そしてついに、スケベ心は私の中からいなくなった。
リセイウチ
リセイウチ
これでもう安心や。
今日からあの男の清らかな彼女、
間違いなしや
心美
心美
……は、はい!

今日から私の脳内は理性の化身、リセイウチのもの。



そう、全ては遊佐くんと真剣に恋をするため。

遊佐くんの清く可愛い彼女になるため。

心美
心美
私、助平心美はケベ心を封印します!




(END.)

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