広いリビング。ふきぬけの天井。
そして足の下にはリアルなトラの絨毯。
ソファーはどんな大殿筋より低反発で手触りがいい。
遊佐くんには紅茶でも飲みながら
待っててと言われたけど――
ぐるりと見渡せば首が痛くなるほどリッチな家。
思わず声を出してしまい口を塞ぐ。
手に触れた唇がまだ熱くて、屋上でのキスを
思い出した。
ヒカル会長はおでこでも不快だったのに……。
どうしてだろう。
ごまかすように紅茶を飲む。
でも遊佐くんにはすべてお見通しのようだ。
遊佐くんの蠱惑的な笑みはスケベ心を呼び覚ました。
遊佐くんは私の隣に座る。
ソファーが揺れ、遊佐くんの重みを真横に感じる。
私を覗き込む遊佐くんの顔はやっぱり整っていて
直視出来ない。
有無を言わせない声色に、思わず目を閉じてしまう。
パチンッとおでこに小さな痛み。
頭の中のスケベ心が残念そうに撤収作業を始めた。
すると、なにやら元気な声と足音が玄関から近づいてくる。
勢いよく扉から飛び込んできたのは、遊佐くんとそっくりな美形の双子小学生。
ぱっと笑顔になった遊佐くんは二人を抱きとめた。
優しい顔つきに思わず微笑んでしまう。
遊佐くんとそっくりな美形二人がニヤリと笑う。
それはまるで小さな悪魔だ。
私の周りをくるくると回りながら悪魔達はあの忌まわしき"すけべぇコール"を始めた。
小学生のトラウマが蘇り、鼻血がたらりと垂れた。
涙目になりながら鼻の血管の弱さを思い知る。
大声で怒られた双子は急に静かになる。
違う。遊佐くんもだめ!
そう言おうと思ったその時――
振り返ると、これまた美形で愛らしい幼稚園児がハンカチを差し出していた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。