第21話

遊佐くんのホクロを数えます
4,892
2019/02/22 09:00


目の前には遊佐くん。
彼の吐息が頬をかすめるほど距離が近い。

あれ、今さっきホクロを数えていいって言った?
スケベ心
スケベ心
スケベチャーーーンス!!

遊佐くんの挑発的な笑みにスケベ心たちが待ってましたと騒ぎ出す。
遊佐
遊佐
ほら、全身くまなく、ア・ソ・コまで
心美
心美
(ア、ア、アソコ?!アソコってどこ? それにこんな願ってもない状況…待って待って、これは夢?幻?私の妄想?)

ぐにぃと強めに自分の頬をつねってみたら、なるほど痛い。すごく痛い。
心美
心美
(これ……現実だ!!)
遊佐
遊佐
なにしてんだよ……ああ、分かった
数えやすいように脱いでやるよ
心美
心美
えっ、遊佐くん?!

とっさに制服を脱ぎだした遊佐くん。
一枚、また一枚とシャツが脱ぎ捨てられていく。
スケベ心
スケベ心
スケベストショ―――ット!!

私の目は瞬きを忘れ、露わになっていく遊佐くんの肌に釘付け。

一瞬一瞬の彼のスケベ仕草をすぐさま記録し、後ほど脳内で上映会を開催したい。
心美
心美
(そんな乱暴に脱ぐから、髪が乱れて!遊佐くん、だめ、そんな目でこっち見ないで!あっ、首筋、胸筋、腹筋、おヘソ…あんな誘うような場所にホクロがっ!)

思わずぎゅっと目を瞑ると、遊佐くんに手をとられる。

スルリと手を導かれ、スベスベとした感触と熱い温度が指先から伝わる。
遊佐
遊佐
おい、目あけろ
ここに、ほらホクロがひとつーー
心美
心美
だめ!! 目を開けたら私!!!
心美
心美
(…きっと遊佐くんを襲ってしまうっ)

そう、あの時のヒカル会長のように……。

遊佐くんにだけは、はしたない女だなんて思われたくない!
スケベ心
スケベ心
目を開けるんだ心美!!
スケべ心
スケべ心
こんなスケベチャンス二度とないぞ!

スケベ心たちが誘惑の園へと全力で手招きしている。
遊佐
遊佐
ほら、ここにもひとつ――

おまけに遊佐くんまで私を誘惑する。

目を閉じているせいか、指先が敏感になってーー。

筋肉の弾力と、なめらかでいて引き締まった肌、そして思いの外熱い体温を感じて鼻血がたらりと垂れた。
心美
心美
(くぅっ……数えたい!全身くまなく遊佐くんの見えないところまで数えたい!それでホクロで星座を作って“心美座”と名付けたい!!)
遊佐
遊佐
そっか。数えないんだ?

急に手を離され、服を着るような衣擦れの音が聞こえてくる。
心美
心美
ちょっと待ったぁぁあ!!
思わず目を開けて後悔した。
遊佐
遊佐
やっぱ数えんだ?
視界は肌色一色。
遊佐くんは勝ち誇ったように私を見下ろし笑った。


無意識に伸びてしまう私の手はもう止まらない。


だけどスケベに礼儀は大事。
心美
心美
遊佐くん、是非数えさせてください!
ふつつか者ですが、よろしくお願い申し上げます!
遊佐
遊佐
ど、どうぞ?
遊佐くんの裸に敬意を払い、お辞儀をする。

早まる鼓動の中、指先はホクロへと吸い寄せられていく。

まるで小さなブラックホール。

そして私はまた我を忘れた。
スケベ心
スケベ心
心美、スケベ覚醒モードへと移行します




どさっ!!
遊佐
遊佐
うおっ

ソファの下へ転げ落ちるように倒れる遊佐くん。

私はその上にのしかかる。

そう、私の目的は唯一つ。
遊佐くんの体中のホクロを全て数えきること。
心美
心美
ホクロがひとつ、ふたつ、みっつ……

まるで夏の大三角形。

首筋、脇腹、ヘソ下のホクロが見事な三角形を描く。

今日からこれは"心美座"。なんていい響き。
心美
心美
(ああ、幸せはここに。遊佐くんの急な提案に感謝しなきゃ。ん?でもーー)
心美
心美
ねぇ、どうして急にホクロ数えていいなんて言ったの?
遊佐
遊佐
は? 前に言ってただろ
ホクロの数が知りたいです。って
―――あ、

焦ったようにガバリと起き上がる遊佐くん。
心美
心美
前に?
私そんなこと言ったっけ

急激にサッと冷える頭。
心美
心美
ホクロの話、したっけ……

我に帰った私は遊佐くんの膝から降りて後ずさる。

目の前の遊佐くんは何かを隠すような、それでいて何か言いたげな表情。
心美
心美
(ホクロの数が知りたいなんて、あの忌まわしい“すけべぇ時代”からは言ってないはず……そう、初恋だと思っていたりっくんとの苦い思い出)


あれ?



りっくんと遊佐くん、どこか似ているような。
まさか、そんなはず……。
心美
心美
(でも遊佐くんの名前って確か理人リヒト…)

もしかして遊佐くんがあの“りっくん”なの?
遊佐
遊佐
悪い、俺……

なぜか眉根を下げた遊佐くんは頬が赤くゆっくりと私を押し倒す。
スケベ心
スケベ心
わっしょーーーい!!!
心美
心美
(ええええ!!何?近い!)
急に縮まった距離に息が詰まり、思考は遮断された。
遊佐
遊佐
ごめん心美……俺、もう我慢できない

遊佐くんの唇と私の唇との距離わずか1センチ。
荒い息遣いに加え目はなんだか熱っぽくてーー。
遊佐
遊佐
我慢、できない……
心美
心美
(え、嘘。も、もしかしてキス?!)

ぎゅっと目をつぶった瞬間、どしりと全身に遊佐くんの重みがのしかかってくる。

荒い呼吸と触れた肌から感じる熱。
心美
心美
え、あれ? 
遊佐くん、大丈夫?!



苦しそうに息をする遊佐くんのおでこは、
私の頬よりずっとずっと熱かった。


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