目の前には遊佐くん。
彼の吐息が頬をかすめるほど距離が近い。
あれ、今さっきホクロを数えていいって言った?
遊佐くんの挑発的な笑みにスケベ心たちが待ってましたと騒ぎ出す。
ぐにぃと強めに自分の頬をつねってみたら、なるほど痛い。すごく痛い。
とっさに制服を脱ぎだした遊佐くん。
一枚、また一枚とシャツが脱ぎ捨てられていく。
私の目は瞬きを忘れ、露わになっていく遊佐くんの肌に釘付け。
一瞬一瞬の彼のスケベ仕草をすぐさま記録し、後ほど脳内で上映会を開催したい。
思わずぎゅっと目を瞑ると、遊佐くんに手をとられる。
スルリと手を導かれ、スベスベとした感触と熱い温度が指先から伝わる。
そう、あの時のヒカル会長のように……。
遊佐くんにだけは、はしたない女だなんて思われたくない!
スケベ心たちが誘惑の園へと全力で手招きしている。
おまけに遊佐くんまで私を誘惑する。
目を閉じているせいか、指先が敏感になってーー。
筋肉の弾力と、なめらかでいて引き締まった肌、そして思いの外熱い体温を感じて鼻血がたらりと垂れた。
急に手を離され、服を着るような衣擦れの音が聞こえてくる。
思わず目を開けて後悔した。
視界は肌色一色。
遊佐くんは勝ち誇ったように私を見下ろし笑った。
無意識に伸びてしまう私の手はもう止まらない。
だけどスケベに礼儀は大事。
遊佐くんの裸に敬意を払い、お辞儀をする。
早まる鼓動の中、指先はホクロへと吸い寄せられていく。
まるで小さなブラックホール。
そして私はまた我を忘れた。
どさっ!!
ソファの下へ転げ落ちるように倒れる遊佐くん。
私はその上にのしかかる。
そう、私の目的は唯一つ。
遊佐くんの体中のホクロを全て数えきること。
まるで夏の大三角形。
首筋、脇腹、ヘソ下のホクロが見事な三角形を描く。
今日からこれは"心美座"。なんていい響き。
焦ったようにガバリと起き上がる遊佐くん。
急激にサッと冷える頭。
我に帰った私は遊佐くんの膝から降りて後ずさる。
目の前の遊佐くんは何かを隠すような、それでいて何か言いたげな表情。
あれ?
りっくんと遊佐くん、どこか似ているような。
まさか、そんなはず……。
もしかして遊佐くんがあの“りっくん”なの?
なぜか眉根を下げた遊佐くんは頬が赤くゆっくりと私を押し倒す。
急に縮まった距離に息が詰まり、思考は遮断された。
遊佐くんの唇と私の唇との距離わずか1センチ。
荒い息遣いに加え目はなんだか熱っぽくてーー。
ぎゅっと目をつぶった瞬間、どしりと全身に遊佐くんの重みがのしかかってくる。
荒い呼吸と触れた肌から感じる熱。
苦しそうに息をする遊佐くんのおでこは、
私の頬よりずっとずっと熱かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。