どうしてか遊佐くんから呼び出しをくらった私は
屋上の入り口で傘を握りしめていた。
昨日の遊佐くんはどうもおかしかった。
考えてもしょうがない。
ゆっくりとドアノブに手をかけ、軋むドアを押した。
そこには沈みかけた太陽と遊佐くんの姿。
いつもの猫背ではなく背筋の伸びた遊佐くんはスタイルがよくてモデルみたい。
遊佐くんに駆け寄り、傘を手渡す。
遊佐くんがじっとこちらを見つめる。
瓶底メガネ越しでははっきりと表情は分からない。
傘をその場に捨てた遊佐くんは
ただならぬオーラを纏いジリジリと私に詰め寄る。
私はまるで敵に見つかったくのいちのように
一歩、また一歩と後ずさる。
そしてトン、と背中がコンクリートにぶつかった。
逃げようとすると、遊佐くんの手が邪魔をする。
遊佐くんが、悲しそうにうつむいた。
私は完全にキャパオーバーだった。
口をついて出てくる言葉は止まらなかった。
スケベ心がツッコんでくるがそんなの気にしない。
急に笑いだした遊佐くんは
するりと瓶底メガネを外した。
端整な顔が挑発的な笑みを浮かべる。
それは紛れもなく、あの日私をパンツ泥棒呼ばわりしてきたドS男。
私はいとも簡単にドSな遊佐くんによって口を塞がれてしまった。
唐突な彼の唇で。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!