何が起きたのかわからなかった。
唇にふわりと柔らかい感触。遊佐くんのドアップ。
頭の中が真っ白になって、足元がふわふわする。
離れていく顔は夕日に照らされ、長いまつげがオレンジ色に染まっていた。
ぺろりと舌を出していじわるく笑う遊佐くんの前で、
私はズルズルとしゃがみこんだ。
まるで全身が心臓になったみたいに
ドクドクと脈打つ。
それにつれ鼻血は更に勢いを増す。
遊佐くんはそんな私の前にしゃがみこみ、
優しく頬を撫でた。
そう言って申し訳なさそうに眉を下げる。
しかし気を抜いた瞬間、ガッと顎を掴まれ
強引に上を向かされる。
私の脳内で、スケベ心達が緊急会議を始める。
私は盛大に土下座した。
コンクリートに頭を擦り付けるように、
それはもう綺麗な土下座だっただろう。
顔を上げる私の頭を、ぽんぽんと撫でる遊佐くん。
口角を挙げて笑う遊佐くんはまるで悪魔のよう。
そう言って遊佐くんは嬉しそうに笑った。
それを見た私の胸は、なぜかぎゅっとなる。
遊佐くんはティッシュをグリグリと
鼻に突っ込んでくる。
遊佐くんは焦った様子で強引に私の手を引き
すたすたと歩き始めた。
遊佐くんの耳が赤いのは、
夕日のせいじゃなかったらいいのに。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。