古来から日本人には、忍者の血が受け継がれてるっておじいちゃんが言ってた。
全くそのとおりだ。
くのいち世界ランキングがあるとすれば、私は2位くらい。たぶん。
ドロン。
毎朝鏡の前で忍者ポーズをとるのが日課だ。
これで私がスケベ女子なんて誰も気づかない。
もし昨日のドS男に出くわしても、このポーカーフェイスには勝てないはず!
学校イチのイケメン、堂島ヒカル会長が渡り廊下を颯爽と歩く。
それを取り囲むのは私のいるギャルグループを筆頭とした“ヒカル守り隊”だ。
勿論ここまでは全てフェイク。
ギャルに扮するために血の滲むような修行をしてきた。
ファッション、メイク、流行りのイケメン俳優。スケベ心を書き綴った裏アカウントなんてもってのほか。
全てはそう、「スケベ心」を隠すため。
おじいちゃん、忍術マニアでいてくれてありがとう!
笑顔のおじいちゃんが頭に浮かんだ。
キラッキラの笑顔を向けられた紗季が顔を真っ赤にしてタオルを渡している。
そんなことを考えているとヒカル会長からキラキラの笑顔を向けられた。
あ、ただのイケメンのサービス笑顔か。
ヒヤっとした。
とりあえず愛想笑いを返しておく。
ドン!
陰気なオーラを纏った男がヒカル会長にぶつかった。
猫背で髪型はキノコヘア。それに加えて瓶底眼鏡。
体操服はきっちりとシャツインされている。
正直言って超ダサい。
ヒカル会長が一瞬メガネ男を睨み、パッと笑顔を浮かべる。
なんともいえない雰囲気が2人の間に流れ、メガネキノコはそのまま会長を無視して立ち去っていく。
高い背を追って振り返った瞬間、私は見てしまった。
体操着の胸元を強引に引き上げ、汗を拭う遊佐くん。
引き上がった体操着から隙間がチラリと見え、筋肉の程よくついた美しい背中が私の目を奪う。
カッと顔に血が上り、頬が火照る。
私のスケベ心が脳内で神輿を担ぎ、準備を始める。
脳内でわっしょいしているスケベ心が、報道陣さながら一眼レフカメラを向ける。
あぁ、鼻血が!
でも今はそんなことより記録だ!記録!
心配そうな顔の会長がハンカチを差し出し、視界に割り込んでくる。
私はすかさずその手を払いのける。
払いのけられた手を悲しそうに見つめるヒカル会長。
はっとして我に返る。
不審そうに私を見る視線、視線、視線。
バレ……た。
嘘と隠し事が大嫌いな紗季を前に、鼻血がドバドバと溢れ出した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。