第18話

スケベスポット第3位、ロッカーの中
4,710
2019/02/01 09:01


狭いロッカーの中、後ろには遊佐くんの体温。

そう、ここはスケベスポットランキング3位のロッカーの中。

スケべ心
スケべ心
※スケベスポットとは、スケベが起きちゃう場所のことだよ!
全ては助平心美の独断と偏見によってランキング化されているんだ


脳内のスケベ心が何やら解説をしているが、こっちはそれどころではない。
先生
うわ、ドアが壊れてっ……おい!!
誰かいるのか?!



コツリ、
コツリ、
コツリ、



ゆっくりと近づいてくる先生に気づかれないよう、
息を潜める。


けれど、この状況に興奮しているスケベ心たちが輪になって踊りだす。

まるで頭の中はブラジル顔負けのカーニバル状態だ。
スケベ心
スケベ心
ズンドコズンドコ!!!

なんとかスケベ心を鎮めようと試みるも、後ろにいる遊佐くんの吐息が耳をくすぐる。
心美
心美
あっ
遊佐
遊佐
お、おい!変な声出すなよ
先生
ん? そこに誰か居るのか?!



コツリ、
コツリ。




先生の足音がロッカーの前で止まる。
心美
心美
(ま、まずい! このままじゃ……)
遊佐
遊佐
……にゃーん。


それは、



耳を疑うほどの棒読みだった。

スケベ心たちでさえカーニバルを中断して顔を見合わせている。
心美
心美
(遊佐くん! いくらなんでもそれは
バレちゃうよ! 全然似てないし!)
先生
……なんだ、猫か
心美
心美
(って、先生ぃぃい!少しは疑って、
ロッカーに猫なんておかしいでしょ!)
先生
……って、猫?! か、痒い!思い出しただけで目が痒い! はっくしょい!!


先生の足音が慌ただしく遠ざかっていく。


遊佐
遊佐
あの先生、猫アレルギーなんだ

顔は見えないけど、きっと遊佐くんは勝ち誇ったようなドヤ顔なんだろう。


なんだか悔しく思いながら、急いでロッカーから出ようとすると、遊佐くんの手で再び引き戻された。

そしてそのまま抱きしめられてーー。
スケベ心
スケベ心
ズンドコズンドコドコドコ!!

突然のバックハグにまた騒ぎ出すスケベ心。

心美
心美
(せ、背中に遊佐くんの胸が……!体温が、鼓動が伝わって……! あれ、このドキドキって私の? 遊佐くんの?)
遊佐
遊佐
なぁ。
ほんとにさっき、会長のこと襲ったの?

更にギュッと抱きしめられ、逃げられない。
まるで頭は噴火寸前のマグマみたい。
心美
心美
(わぁぁああ!ゆ、遊佐くんの匂い…!あぁ、神様。私はもうこの世に思い残すことは……ってダメダメ!危うく昇天しちゃうところだった!)
心美
心美
は、離して遊佐くん!
遊佐
遊佐
答えろよ。本当に襲ったのか?
心美
心美
……お、襲ったよ! でも襲うべくして襲ったというか、正当防衛?みたいな
遊佐
遊佐
ふーん

遊佐くんは私の肩首に顔を埋め、なんだか納得いかないようにため息を吐いた。


ドキドキと早まる心臓の音。こんなの遊佐くんに聞かれたら……。

逃げたくなって腕の中で身を捩ると、なにやら腰のあたりに違和感を感じる。
心美
心美
(ん? この腰に当たる硬いもの……)
スケベ心
スケベ心
ズンドコドコドコ!!!
ズンドコドコドコ!!

スケベ心たちが、けたたましく踊りだす。

心美
心美
(まさか、この硬いものってぇええ!)



ドキドキ


はぁはぁ……


心美
心美
(遊佐くんの?)


ドキドキ


はぁはぁはぁ……


心美
心美
(遊佐くんの?!)



バクバク


はぁはぁはぁはぁ……


心美
心美
(遊佐くんの、硬いーーー)


息の上がりきった私は、前につんのめってロッカーから飛び出していた。

そしてバラバラとホウキが落ちてくる。

心美
心美
(ホウ……キ?)



ホウキーーーーーーー。

そこで私の意識は途絶えた。









目を覚ますと、そこは保健室。


ベッドの横には椅子に座って本を読む遊佐くん。

ぼうっとまつげの長い綺麗な横顔を盗み見ていたら、本で軽く小突かれた。
遊佐
遊佐
……貧血だそうだ
心美
心美
そっか。そういえば、今日ずっと
鼻血出してたから……
遊佐
遊佐
それと、さっきお前に話があるって女子が来たぞ。すごい剣幕で

サッと血の気が引いた。
そうだ私、ヒカル会長にセクハラして……。
心美
心美
(きっと、さっちょんに私がスケベってことバラしちゃったんだ)

グラグラ揺れる脳内に“すけべぇ”コールが鳴り響く。

遊佐
遊佐
喧嘩か?
心美
心美
……喧嘩、すらできてないよ
心美
心美
(元はといえば、スケベなのを隠してた私が悪いんだ……それで芋づる式に隠し事が増えて、すれ違って……)
心美
心美
……そっか! 喧嘩すればいいんだ!
遊佐
遊佐
は? 何言ってんだ

私の発言に眉根を寄せ、遊佐くんはクスリと笑った。



明日には学校中に知れ渡っているであろう、
ヒカル会長とのスケベ事件。

でもこれでやっと、隠し事がなくなるんだと思うと
少し気が楽になった。
心美
心美
私、さっちょんとちゃんと喧嘩する!!
隠してたこと全部話す!


勢いよく起き上がろうとした私は、遊佐くんによってボフンと布団へ押し倒された。

遊佐
遊佐
うるせえ、今は寝ろ


ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、遊佐くんは優しく
微笑んだ。





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