狭いロッカーの中、後ろには遊佐くんの体温。
そう、ここはスケベスポットランキング3位のロッカーの中。
脳内のスケベ心が何やら解説をしているが、こっちはそれどころではない。
コツリ、
コツリ、
コツリ、
ゆっくりと近づいてくる先生に気づかれないよう、
息を潜める。
けれど、この状況に興奮しているスケベ心たちが輪になって踊りだす。
まるで頭の中はブラジル顔負けのカーニバル状態だ。
なんとかスケベ心を鎮めようと試みるも、後ろにいる遊佐くんの吐息が耳をくすぐる。
コツリ、
コツリ。
先生の足音がロッカーの前で止まる。
それは、
耳を疑うほどの棒読みだった。
スケベ心たちでさえカーニバルを中断して顔を見合わせている。
先生の足音が慌ただしく遠ざかっていく。
顔は見えないけど、きっと遊佐くんは勝ち誇ったようなドヤ顔なんだろう。
なんだか悔しく思いながら、急いでロッカーから出ようとすると、遊佐くんの手で再び引き戻された。
そしてそのまま抱きしめられてーー。
突然のバックハグにまた騒ぎ出すスケベ心。
更にギュッと抱きしめられ、逃げられない。
まるで頭は噴火寸前のマグマみたい。
遊佐くんは私の肩首に顔を埋め、なんだか納得いかないようにため息を吐いた。
ドキドキと早まる心臓の音。こんなの遊佐くんに聞かれたら……。
逃げたくなって腕の中で身を捩ると、なにやら腰のあたりに違和感を感じる。
スケベ心たちが、けたたましく踊りだす。
ドキドキ
はぁはぁ……
ドキドキ
はぁはぁはぁ……
バクバク
はぁはぁはぁはぁ……
息の上がりきった私は、前につんのめってロッカーから飛び出していた。
そしてバラバラとホウキが落ちてくる。
ホウキーーーーーーー。
そこで私の意識は途絶えた。
目を覚ますと、そこは保健室。
ベッドの横には椅子に座って本を読む遊佐くん。
ぼうっとまつげの長い綺麗な横顔を盗み見ていたら、本で軽く小突かれた。
サッと血の気が引いた。
そうだ私、ヒカル会長にセクハラして……。
グラグラ揺れる脳内に“すけべぇ”コールが鳴り響く。
私の発言に眉根を寄せ、遊佐くんはクスリと笑った。
明日には学校中に知れ渡っているであろう、
ヒカル会長とのスケベ事件。
でもこれでやっと、隠し事がなくなるんだと思うと
少し気が楽になった。
勢いよく起き上がろうとした私は、遊佐くんによってボフンと布団へ押し倒された。
ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、遊佐くんは優しく
微笑んだ。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。