恋、そうか。これって恋だったんだ。
自分でも分からなかった感情は、“恋”と名付けるとしっくりきた。
まるでパズルのピースがピタリとはまったみたい。
遊佐くんのことを考えるだけで、胸がざわついて
居ても立ってもいられない。
胸のざわつきに反応したすけべ心たちは、しょんぼりと退散していく。
遊佐くんにあーんする妄想をしていたら、
このアリサマだ。
恋とは時間をも奪う恐ろしいものかもしれない。
ノックをしようとしたら突然、謎の緊張が私を襲う。
ドキドキと高鳴る鼓動を抑え、そっと部屋に入ると、遊佐くんは苦しそうに寝息を立てていた。
遊佐くんは悪い夢でも見てるのだろう。
しきりに誰かに謝っている。
遊佐くんの口からでた唐突な“好き”にドクリと鼓動が音をたて、頬が熱を持つ。
自分で言い聞かせた言葉に勝手に傷ついてしまう。
ぼーっとその場に突っ立っていたら遊佐くんがうめき声をあげた。
慌てておかゆをそっとサイドテーブルに置く。
急いで苦しそうな遊佐くんの汗を拭いてあげる。
とその時、
手首をぐっと引かれ遊佐くんが目を覚ます。
ドクリ…
心臓が、止まった。
スケベ心たちも驚いて固まっている。
盛大に尻もちをついた私を見て、遊佐くんは何やってんだよとため息を吐く。
遊佐くんは焦ったようにうろたえ、私から気まずそうに目を逸らす。
じっとこちらを見つめる遊佐くんの熱っぽい目。
そんなに見つめられると、なんだか私に
謝ってるみたい……。
でも、りっくんが遊佐くんなら……。
私はーー。
微かな期待を胸に遊佐くんに問う。
スケベ心も固唾をのんで見守っている。
ズガーーーーーーーン
まるで雷にでも打たれたかのような衝撃。
心美、撃沈。
恋は痛みを伴う。そのとおりだ。
ジクジクと胸を蝕むような痛み。
遊佐くんの口から好きな子の話なんて、嫌だ。
相変わらずわがままドSの遊佐くんにおかゆを掬って差し出す。
スプーンの上、黒く焦げ付いたおかゆを見ると
なんだか凄く惨めな気分。
念願のあーんを前に、なぜだかじわりと涙が滲んだ。
遊佐くんの口におかゆをつっこみ、私はそのまま部屋から飛び出した。
涙なんか見られたくない。
でもそれより、もうこれ以上好きな子の話なんか聞きたくない……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。