遊佐くんの背に絡みつくイズミさんの腕。
そのまま彼女は遊佐くんの首筋に唇を寄せる。
ふとイズミさんと目が合った。
口パクでそう言って彼女は挑発的な笑みを浮かべた。
私はいてもたってもいられなくなって、 スタジオから
逃げ出した。
私を呼ぶ遊佐くんの声が遠くに聞こえた気がした。
翌日の登校は、それはもう憂鬱だった。
当たり前のように空気扱いの私。
さっちょんは話しかける隙すら与えてくれない。
今日もダメか、と思わずうつむいた。
突然キラキラオーラ全開で顔を覗き込んできたのは
ヒカル会長。
会長を取り囲むヒカル守り隊の花道。
あろうことか彼は私の前で立ち止まった。
さっきまでは見向きもしなかったさっちょんの目線が刺すように痛い。
それを見て何かを察したヒカル会長が私の手を取って
走り出した。
意外と強い腕を掴む力。振り払うことができない。
遠くでさっちょんの叫び声が聞こえた。
連れてこられたのは誰もいない生徒会室。
ふと窓の外に目をやると、遊佐くんが見えた。
イズミさんと抱き合う光景がフラッシュバックする。
胸の痛みとモヤモヤを鎮めるため、慌ててカーテン
を閉めた。
すると突然、ヒカル会長が後ろから私をぎゅっと抱きしめる。
背中に優しい温度を感じる。
でもスケベ心は騒がない。
振り返るとヒカル会長は慌てて離れる。
そして改まった様子で頭を下げた。
顔を上げたヒカル会長は申し訳なさそうな顔で
ふわりと私の頬を撫でた。
今まで見たことのない真剣な顔。
潤んだ瞳はなんだかすごく真っ直ぐだった。
ヒカル会長はちらりとカーテンの方に目線を向けた。
会長の顔が少し苦しそうに歪む。
震える手を握りしめる会長は触れたら
消えてしまいそう。
力なく笑う彼の目は涙で潤んでいた。
ヒカル会長のこと、少し誤解してたのかもしれない。
そう言って会長はおもむろにドアの方へと歩く。
ガチャリ……。
ヒカル会長はドアの鍵をかけた。
突然お腹を抱えて笑い出す会長。
ただならぬ雰囲気に逃げ出そうとドアに駆け寄る。
しかしカギは開かない。
すると強い力で腕を引かれ、床に押し倒される。
覆いかぶさった会長は怖いくらいの無表情で
私を見下ろした。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。