第20話

スケべと恋と彼の嫉妬
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2019/02/15 09:02

今日は遊佐くん家の家政婦の日。
まだこの遊佐くんへの気持ちが、スケベなのか恋なのか思い悩んでいた。

いくらスケベプロの私も、恋についてはド素人。

変なモヤモヤを抱えたまま、遊佐くんが待つ裏門へと急ぐ。




ドン!
ヒカル
ヒカル
おっと、ごめ――
ヒカル
ヒカル
って、うわ?!
ぶつかったのはヒカル会長。

彼は私を見るなり、ズサッと距離を取った。
そう、ちょうど1メートルほど後ろに。


おまけにいつものキラキラオーラはどこへやら、顔は真っ赤だ。


ドクンドクン
心美
心美
あの、この前はセクハラしてごめんなさい!

ドクドクドク
心美
心美
それと、ありがとうございました!

ドクドクドクドク
ヒカル
ヒカル
は? な、なんのこと?
心美
心美
誤解といてくれたこと
しかも、スケベなこと黙っててくれて…
ヒカル
ヒカル
べ、べべべつに?
心美ちゃんの為とかじゃないから!
絶対!絶対!ぜっったいに!!

バクバクバクバク……


あれ、さっきから何の音? 鼓動の音だよね? 
私じゃないとしたら……ヒカル会長?
心美
心美
ヒカル会長、大丈夫?
すごい心臓の音。不整脈、とか?

ヒカル会長はその言葉でとたんに無表情になり、鼓動の音は静まった。


そして何やらポケットをゴソゴソと探り、スマホ画面をこちらに向けた。

待受画面には、あの時撮られた私が会長を押し倒すスケベ写真が――。
心美
心美
そ、それはぁああ!!

伸ばした手はスマホを掴むことができず、空を切る。
ヒカル
ヒカル
これでいつでも見れ――じゃなくてバラすことができる! 悔しいだろ!

背の高いヒカル会長はひらひらとスマホを高く上げ挑発してくる。

私の背丈では到底届かず、ただ遊ばれる犬のようにジャンプするだけ。


その時


私の後ろから伸びた手が、ひょいとヒカル会長の手からスマホを奪った。
遊佐
遊佐
何だこれ
後ろを振り向くと、遊佐くん。

スマホをじっと見つめる遊佐くんの目には、なんだか怒気がこもっている。
ヒカル
ヒカル
お前には関係ないだろ? 返せよ
遊佐
遊佐
は?

睨み合う二人の空気は凍りつき、初夏なのに背筋がひやりと冷める。

突然、遊佐くんに後ろから腕を回し引き寄せられる。

ひやりとした背筋は一気に熱を持ち、待ってましたとスケベ心が騒ぎ出す。
スケベ心
スケベ心
わっしょーー
心美
心美
(ストーーップ!!いくらなんでも今は出てきちゃダメ!! あ、遊佐くんの腕の筋かっこいい……ってダメ!正気を保って私!)

私の頭の中の攻防などつゆ知らず、睨み合う二人。
遊佐くんは会長のスマホを突き返した。

ヒカル会長は突き返されたスマホを見て目を見開いた。
ヒカル
ヒカル
お、お前、まさか消したのか?!
遊佐
遊佐
ああ
ヒカル
ヒカル
おまっ、嘘だろ?!もうあんな写真二度と手に入らないのにっ

ヒカル会長はよほどショックだったのか、涙目だ。
遊佐
遊佐
当たり前だろ
だってこいつは、俺のーー
そこで言い淀む遊佐くん。
心美
心美
(え?お、俺の…………なに?!
俺の彼女? 俺の恋人? 俺の嫁?)

ドキドキと期待の妄想が膨らみ、鼓動が早まる。
遊佐
遊佐
俺の――、遊佐家の家政婦だ



チ―――――――――ン……
心美
心美
(家政婦かーーー)

残念な気持ちとともに、たらりと鼻血が垂れた。
遊佐
遊佐
おい、大丈夫か?!
ヒカル
ヒカル
ちょっ、大丈夫?!

図らずもハモった二人は仲が悪くてもやっぱり双子なんだと、おかしくなって笑ってしまう。
遊佐
遊佐
なに笑ってんだ
帰ったら……覚えとけよ、心美




心美

心美

心美……


囁くように呼ばれた名前が頭の中に甘く響く。


昇天。






遊佐くんの声を反芻していると、いつの間にか遊佐家についていた。
心美
心美
(あ、あれ? いつの間に……)

何故か誰もいないリビングでじっと遊佐くんに見つられている。

なんだろう、視線で穴が空きそう。話題、なにか話題は……。
心美
心美
あのっ、今日さ、ハモってたしやっぱりヒカルくんとは双子なんだなーって
遊佐
遊佐
ん?
お前、俺らが双子だって知ってたのか?
心美
心美
あー、成り行きで!!
あ、ほらここの首筋のホクロとか
ヒカルくんと同じで――
遊佐
遊佐
おい



トサリ

突然、ソファに押し倒された。
遊佐
遊佐
今後、俺の前でアイツの話禁止

遊佐くんの目はいつもより爛々と輝いている。

私の思考は置いてけぼりで遊佐くんは覆いかぶさる。
遊佐
遊佐
なぁ
心美
心美
へ?
遊佐
遊佐
お前になら、
心美
心美
お前になら?



さらにぐっと近づいた遊佐くんは私の耳元で囁く。

近い、近すぎるっ――。

遊佐
遊佐
俺のホクロ、
数えさせてやってもいいけど?
遊佐
遊佐
もちろん全身、くまなく、
ア・ソ・コまで

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