今日は遊佐くん家の家政婦の日。
まだこの遊佐くんへの気持ちが、スケベなのか恋なのか思い悩んでいた。
いくらスケベプロの私も、恋についてはド素人。
変なモヤモヤを抱えたまま、遊佐くんが待つ裏門へと急ぐ。
ドン!
ぶつかったのはヒカル会長。
彼は私を見るなり、ズサッと距離を取った。
そう、ちょうど1メートルほど後ろに。
おまけにいつものキラキラオーラはどこへやら、顔は真っ赤だ。
ドクンドクン
ドクドクドク
ドクドクドクドク
バクバクバクバク……
あれ、さっきから何の音? 鼓動の音だよね?
私じゃないとしたら……ヒカル会長?
ヒカル会長はその言葉でとたんに無表情になり、鼓動の音は静まった。
そして何やらポケットをゴソゴソと探り、スマホ画面をこちらに向けた。
待受画面には、あの時撮られた私が会長を押し倒すスケベ写真が――。
伸ばした手はスマホを掴むことができず、空を切る。
背の高いヒカル会長はひらひらとスマホを高く上げ挑発してくる。
私の背丈では到底届かず、ただ遊ばれる犬のようにジャンプするだけ。
その時
私の後ろから伸びた手が、ひょいとヒカル会長の手からスマホを奪った。
後ろを振り向くと、遊佐くん。
スマホをじっと見つめる遊佐くんの目には、なんだか怒気がこもっている。
睨み合う二人の空気は凍りつき、初夏なのに背筋がひやりと冷める。
突然、遊佐くんに後ろから腕を回し引き寄せられる。
ひやりとした背筋は一気に熱を持ち、待ってましたとスケベ心が騒ぎ出す。
私の頭の中の攻防などつゆ知らず、睨み合う二人。
遊佐くんは会長のスマホを突き返した。
ヒカル会長は突き返されたスマホを見て目を見開いた。
ヒカル会長はよほどショックだったのか、涙目だ。
そこで言い淀む遊佐くん。
ドキドキと期待の妄想が膨らみ、鼓動が早まる。
チ―――――――――ン……
残念な気持ちとともに、たらりと鼻血が垂れた。
図らずもハモった二人は仲が悪くてもやっぱり双子なんだと、おかしくなって笑ってしまう。
心美
心美
心美……
囁くように呼ばれた名前が頭の中に甘く響く。
昇天。
遊佐くんの声を反芻していると、いつの間にか遊佐家についていた。
何故か誰もいないリビングでじっと遊佐くんに見つられている。
なんだろう、視線で穴が空きそう。話題、なにか話題は……。
トサリ
突然、ソファに押し倒された。
遊佐くんの目はいつもより爛々と輝いている。
私の思考は置いてけぼりで遊佐くんは覆いかぶさる。
さらにぐっと近づいた遊佐くんは私の耳元で囁く。
近い、近すぎるっ――。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。