小さく嘆息する。
怖がらせないように。優しく、優しく問いかける。
理久は少しだけびくっと体を震わせ、額をぐりぐりと背中に押し付けてきた。
‥‥これ、何の時間?
男とは言えアイドルばりの美少女に背中からくっつかれている状況は女の私でもどうにかなってしまいそうな雰囲気なわけで。
千裕にでも見られればからかわれることは必須だろう。
‥‥イケナイ扉を開いてしまいそうでぞっとする。
震えた声音でそう言われてしまえばもう、断る理由なんて無い。
立ち止まり、理久が落ち着くのを待っていた。
やっと落ち着いたのか、噴水を前にするベンチに腰掛け、理久はぽつりぽつりと語り出した。
慌てて自販機で買ったコーヒーを差し出すと、一口。
真っ白い頬に赤みがさして、理久の目がとろんと柔らかくなる。
そういえば毎日のように放課後になるとしつこく遊びに誘ってきていた気がする。
私も彼女も女子同士なわけで本気にはしていなかったし、彼女も軽くあしらわれていることに気付いていたと思う。
思わず気の抜けた声が飛び出る。
だって、そもそも彼氏すらいない喪女の私に彼女って‥‥いや、この見た目だから勘違いされても仕方ないか。
苦笑すると、諭すように彼の華奢な肩に手を置いた。
慌てたように頬を真っ赤に染め上げ、彼は私から離れようとする。
そもそも男でも無いんだけど‥‥そう言いかけたところで彼が苦しそうに呟いた。
そう言うや否や、彼はコーヒーをぐっと飲み干し、走り去ろうとする。
状況が飲み込めない私は思わぬ爆弾発言にも気付かずただ、彼の細い手首を無意識に捕まえていた。
彼の体を引き寄せ、じっと黒象の瞳を見つめる。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!