第7話

Six. 予備軍の仲間入り 
1,071
2020/08/07 11:25
小さく嘆息する。
白嶺 旭
‥‥どうかしたの?
怖がらせないように。優しく、優しく問いかける。
理久は少しだけびくっと体を震わせ、額をぐりぐりと背中に押し付けてきた。
‥‥これ、何の時間?
男とは言えアイドルばりの美少女に背中からくっつかれている状況は女の私でもどうにかなってしまいそうな雰囲気なわけで。
千裕にでも見られればからかわれることは必須だろう。
‥‥イケナイ扉を開いてしまいそうでぞっとする。
黒川 理久
すみません‥‥今はちょっとだけ。こうさせてもらえませんか?
震えた声音でそう言われてしまえばもう、断る理由なんて無い。
立ち止まり、理久が落ち着くのを待っていた。









黒川 理久
‥‥2年の桃園先輩が話してるのを聞いてしまいました。
やっと落ち着いたのか、噴水を前にするベンチに腰掛け、理久はぽつりぽつりと語り出した。
慌てて自販機で買ったコーヒーを差し出すと、一口。
真っ白い頬に赤みがさして、理久の目がとろんと柔らかくなる。
白嶺 旭
桃園って‥‥桃園えりかのこと?
そういえば毎日のように放課後になるとしつこく遊びに誘ってきていた気がする。
私も彼女も女子同士なわけで本気にはしていなかったし、彼女も軽くあしらわれていることに気付いていたと思う。
黒川 理久
先輩は‥‥彼女さんとか、いるんですか?
白嶺 旭
っへ?
思わず気の抜けた声が飛び出る。
だって、そもそも彼氏すらいない喪女の私に彼女って‥‥いや、この見た目だから勘違いされても仕方ないか。
苦笑すると、さとすように彼の華奢な肩に手を置いた。
白嶺 旭
黒川くん、私はね‥‥‥
黒川 理久
ご、ごめんなさい!変なこと聞いてっ!
慌てたように頬を真っ赤に染め上げ、彼は私から離れようとする。
白嶺 旭
い、嫌、別に‥‥‥変っていうかその‥
そもそも男でも無いんだけど‥‥そう言いかけたところで彼が苦しそうに呟いた。
黒川 理久
最近の僕は、ちょっと変です‥‥先輩といると、楽しいけど胸が苦しい。
そう言うや否や、彼はコーヒーをぐっと飲み干し、走り去ろうとする。
状況が飲み込めない私は思わぬ爆弾発言にも気付かずただ、彼の細い手首を無意識に捕まえていた。
彼の体を引き寄せ、じっと黒象の瞳を見つめる。
白嶺 旭
黒川くんは変なんかじゃないよ。

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