いつものごとく放課後の生徒会室で、千裕はペンを止めてぽつりと呟いた。
どうでもいい部費申請やら何やらに飽きてきたんだろう。
椎乃木町は私と千裕の住む夕垣市のすぐ隣だ。
自転車で5分も漕げば簡単に着いてしまう距離。
背筋の辺りにぞくりとした何かを感じる。
まさか昨日は私の家に理久が居たから……?
一瞬でも恐ろしい想像をしてしまった。
自分に言い聞かせるように私は深呼吸をする。
大丈夫だ、ただの杞憂に違いない。
千裕はふっと嘲るように笑った。
「怖いわけない」そう言いかけて、自分の足が震えていることに気付いた。
…情けない。不審者ごときに、怖がってるなんて。
少し潤んだ視界を誤魔化すように、私は黙って俯いた。
そんな姿を見て、つまらないとでも言う風に千裕は一息、嘆息した。
透き通った青の瞳が、全てを見通そうとするかのように細くなる。
気付いた時にはもう、生徒会室から飛び出していた。
ドア越しに千裕の咳払いが聞こえる。
千裕は意地悪で性格がひん曲がっている。
そうは思いつつも、素直になれずに強がってしまう自分が一番嫌だ。
王子だから、という言い訳で。
ああ、もう。
胸元のちくちくとした何かが鬱陶しくて、噴水の見える中庭を駆け抜け、さっさと校門を出ようとする。
突然背後をとられたかと思うと、グッとセーターの袖を引っ張られる。
その力は意外にも弱い。…まさか不審者ではあるまい。
そう思いながらも警戒は緩めず、ゆっくり後ろを向く。
やはり、顔見知り……いや、ここ最近で千裕の次に見慣れた顔がそこにはあった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。