第6話

Five 拭えない違和感
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2020/08/03 09:52
青瀬 千裕
そういえば例の不審者、昨日は椎乃木町の近くに出たらしいな。
いつものごとく放課後の生徒会室で、千裕はペンを止めてぽつりと呟いた。
どうでもいい部費申請やら何やらに飽きてきたんだろう。
白嶺 旭
椎乃木町? 私達の家のすぐ近くじゃないか…
椎乃木町は私と千裕の住む夕垣市のすぐ隣だ。
自転車で5分も漕げば簡単に着いてしまう距離。
背筋の辺りにぞくりとした何かを感じる。
まさか昨日は私の家に理久が居たから……?
一瞬でも恐ろしい想像をしてしまった。
自分に言い聞かせるように私は深呼吸をする。
大丈夫だ、ただの杞憂に違いない。

千裕はふっと嘲るように笑った。
青瀬 千裕
王子様は不審者が怖いのか?
白嶺 旭
なっ……!
「怖いわけない」そう言いかけて、自分の足が震えていることに気付いた。
…情けない。不審者ごときに、怖がってるなんて。
少し潤んだ視界を誤魔化すように、私は黙って俯いた。

そんな姿を見て、つまらないとでも言う風に千裕は一息、嘆息した。
青瀬 千裕
お前は自分を誤魔化すのが好きだな。
透き通った青の瞳が、全てを見通そうとするかのように細くなる。
気付いた時にはもう、生徒会室から飛び出していた。
ドア越しに千裕の咳払いが聞こえる。
青瀬 千裕
怖いのならそう認めろ、馬鹿。
白嶺 旭
…うっさい! 馬鹿 千裕!
千裕は意地悪で性格がひん曲がっている。
そうは思いつつも、素直になれずに強がってしまう自分が一番嫌だ。
王子だから、という言い訳で。
ああ、もう。
胸元のちくちくとした何かが鬱陶しくて、噴水の見える中庭を駆け抜け、さっさと校門を出ようとする。
???
旭っ…さん。
突然背後をとられたかと思うと、グッとセーターの袖を引っ張られる。
その力は意外にも弱い。…まさか不審者ではあるまい。
そう思いながらも警戒は緩めず、ゆっくり後ろを向く。


やはり、顔見知り……いや、ここ最近で千裕の次に見慣れた顔がそこにはあった。
白嶺 旭
…何してるの、黒川くん。

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