その準備は少しだが出来ていた。
もちろんそれを伝えるために彼を探しに行ったのだから、当たり前なのだけれど。それでも私の手は震えていた。
自分の思いを伝えるというのは、こんなにも怖いことなんだ。
十七年間の人生で、やっとそんなことが分かった。
それでも、あの日観覧車で告白してくれた黒川くんはもっと怖かったんだ。
その誠意に答えなくてどうする、“学園の王子”よ。
自分に言い聞かせ、ぐっと手を強く握り締めた。爪が肉に食い込む痛覚は若干の緊張を和らげてくれた。
今度は私が息を吸う番。
お互いを真っ直ぐに見据え、いつにもなく真剣な表情で即答する理久。
それだけ強い気持ちに自分も今から答えないといけない。
キッと眉を釣り上げた。
理久はただ静かに首肯を返す。
額からひやりと汗が伝うのを拭うこともせず、ゆっくりと続く言葉を紡いでいった。
沈黙が流れる。
理久はもう何も言わなかった。もしかしたら最後の言葉を待っているのかもしれない。
理久は驚いたようにぱっと顔を上げた。
何かを決意したような厳しい顔から、あどけない“姫”の表情に戻っていたことに軽く安堵する。
言葉が出ないように暫く口をパクパクと開けると、途切れ途切れだが彼は震える声で言った。
柄にもなくつっけんどんな態度の私に、彼はぷっと吹き出したかと思うと大きな声でけらけらと笑い出した。
つい恥ずかしくなり反論を返そうとする私も、彼につられて少しずつ笑みが溢れてくる。
にっこり笑う彼の顔は、今までのどの笑顔よりもずっと。
自然体で輝いているものだった────
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!