人一倍繊細な彼を怯えさせないよう、にっこり笑う。
彼の肩が一瞬びくりと振動したかと思うと、色白な肌が真っ赤に染まる。
何だか茹で蛸みたい。真っ先に思いついたのがそれで、くすりと嘲笑してしまう。
理久はパクパクと口を動かし何かを抗議しようとするも、言葉にならない掠れ声を挙げることしか出来なかった。
苦笑する理久に思わず目を瞬かせる。
何が面白いのかそれを見た理久はまたけらけらと笑い始めた。
___その笑顔に若干の涙が見えたことは、私だけの秘密として黙っておくことにする。
先程とは打って変わって、理久はどこかにやりと笑う。
まるで何かを覚悟したような真剣な表情に、思わず見惚れてしまった。
しかしそれも束の間、理久の言葉が一瞬理解できず、脳内再生する。
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快晴の日曜日──────
どういう訳か私 白嶺旭は、私服姿の理久と都内で有名な遊園地に来ていた。
─────数日前──────
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理久の私服は思ったより男子らしいものだった。
いや、元々男子なんだけど。
シンプルな黒のTシャツにデニム、深い青のロングカーディガンを羽織る姿は多分、誰が見ても“学園の姫”とは分からないだろう。
もしかしてそれを意図して着てきた? ……流石にそんな訳無いか。
無邪気に白と黒のペア猫耳カチューシャを手に取る理久。
素直にその姿を可愛いと思ってしまった自分がいるのを誤魔化すように適当にその場にあった白い猫耳カチューシャを手に取った。
鏡に映る自分の姿に苦笑いし、カチューシャを外そうとする手を理久がぎゅっと掴んだ。
上目遣いと涙目は反則だ。
ずるい、あんなの買うしか選択肢が無いじゃないか。
そんなことを思いながらレジを済まし、ようやく売店を後にすることにした。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!