〈末澤side〉
グループはもちろん、個人活動が増える中、
彼は誰よりも忙しい。
「ただいま…」
「佐野!おかえり!」
大好きな恋人が帰ってきて、嬉しくないわけがない。
玄関まで出向き、佐野に抱きつく。
「ごめん、後にしてもらってええ?」
スっと背中に回した腕を離され、
こちらの顔も見ずに洗面室に向かった。
「あ…うん」
今までこんなことなかった。
相当疲れとるんやろな。
「ハァ〜…」
ため息を吐きながら、ドサッとソファに横になる。
「水かなんか飲む?」
「いや、いい」
「…そっか」
返事をしたあとすぐ、佐野は寝落ちてしまった。
すぐに起こすのも可哀想やし、
20分くらい経ったら起こすか。
「佐野…起きてや、ベッド行こ?」
「ん〜…起きるから大丈夫」
「大丈夫?起きれる?」
「うん、先ベッド行っててええよ」
「わかった、待ってるな?」
……30分経っても来おへん。
起こしに行くか。
「佐野…こんなとこで寝たらアカンよ」
「ん……うるさ」
「うるさないて、風邪ひくから」
「すぐ起きれんて!あっち行っといてや」
「……わかった」
いくら疲れているとはいえ、語彙が強い物言いに心臓がズキンと痛む。
心配しとるだけやのに。
「身体痛めても、風邪ひいても知らんからな」
今にも溢れそうな涙をのみ、
そう言い捨ててひとりでベッドに入る。
「グスッ……佐野のばかっ……」
ただでさえ2人の時間が少ないのに、
この状況がよけいに寂しい。
結局この日の夜、隣に佐野は来なかった。
______________
「ん…朝か…」
隣にいつもの温もりはなかった。
「もう出たんか…」
仕事なので仕方ないけれど、
寂しさに拍車をかけた。
「ハァ〜……」
でっかいため息が、楽屋に広がっていく。
「あれ、誠也くんまだ居ったん?」
「あぁ…うん、まぁな」
撮影が終わった正門が声を掛けてきた。
「なんや元気ないですね?どしたんですか?」
こいつとはソワソワするけど、嫌いとかじゃない。
むしろこの距離感がちょうどよくて、
たまにその優しさに甘えたくなる。
「いや…なんもないよ」
「そうは見えんのやけど…」
座ったままの俺に、上から頭を撫で、
眉を下げて覗き込んでくる。
今はその手の温かさに縋ってしまいたくなる。
「ほらほら、正門さんに言うてみ〜?」
ぽやっとした物言いとおチャラけ具合が、
氷の欠片が刺さったような心を溶かしていく。
気づけば目頭が熱くなっていた。
「……グスッ…さ、さのがっ最近冷たいねん」
「疲れとるだけやと思うねんけど、でもやっぱ一緒に居ると寂しくなって」
「き、昨日もなっ、ソファで寝たらアカンから起こしに行ったら怒られてん…心配しただけやのにっ…グスッ」
正門は黙って背中をさすりながら、話を聞いてくれた。
「それは……晶哉がアカンなぁ、こんな可愛い人泣かせて」
「どないしたらええんやろ……」
「ちょっと辛いかもやけど、ほっといたらええんとちゃいます?」
「え?」
「少しの間、気にかけるん辞めたらええわ」
「できる気がせえへん……」
「でも今のままやと、誠也くんがすり減っちゃいますよ」
「大丈夫です、どうせ寂しくなって1日も持たずに晶哉から構いにきますよ」
俺よりも長く一緒にいる正門が言うんだから、
言う通りにしてみようか…
「やってみるわ…」
「溜め込まんと、相談してくださいね!」
「うん、ありがとうな」
「どういたしまして!じゃ、帰りましょうか!」
「せやな」
「ただいま…」
佐野はまだ帰ってきてない。
「ふぅ…先寝てまお」
しばらくすると、ガチャッと玄関のドアが開いた。
気にしちゃダメ。寝たフリしてしまおう。
なるべくベッドの端に寄って、
佐野の温もりを感じないようにした。
「誠也くん、寝てる?」
寝たフリをする俺に小さく話しかける。
「なんでそんな端に寄ってんの…」
それはお前が冷たかったからや…。
「俺のせいよな、ごめんね。でもそんな離れとったら寂しい」
俺だって寂しいよ。
「……嫌われちゃったかな」
そのひと言を聞いた瞬間、飛び起きた。
「そんなわけないやん…!」
「え、誠也くん起きて…」
「嫌いになんかなれるわけないやん!」
「誠也くん…昨日は、というか最近冷たかったよな?ごめん」
「ちゃう…疲れとるんわかっとるのに、俺が勝手に寂しくなってるだけで…」
「ねぇ誠也くん…こっちきてよ」
長い腕を広げて、待っている。
「さのっ……!」
俺は堪らず佐野の胸に飛び込んだ。
久しぶりの佐野からのハグ。
「寂しかった……グスッ」
「うん、ごめんな」
「昨日、怒鳴られて嫌やった!」
「ごめん、ごめんな…」
「佐野のバカッ!風邪ひいたらどないすんねん!」
「せやな…心配してくれてありがとうね」
顔がぐちゃぐちゃであろう。
俺は泣きながら佐野に訴えた。
「誠也くん、今日はぎゅってしながら寝よ?」
「ヒッ…グスッ…離さんでよ?」
「うん、離さへんよ」
「佐野…好き」
「誠也くん、大好きですよ」
「ほらもっと」
こっちにきてよ。
end.











編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!