〈佐野side〉
夏祭り、欲しくて欲しくて堪らなかった。
優雅に泳ぐ金魚たち。
ヒラヒラと尾びれを翻しながら、
夢見る子どもたちを誘う。
「僕もやりたい」
まんまと惑わされた幼少期。
浅い水の箱に、一面に広がる赤い色。
その中で一匹、群れの中でひと回り小さく、
白い鱗に一際目立つ赤い模様。
捕まえたくて仕方がなかった。
やれどもやれども掬えず、
両親に諦めることを諭され帰った。
夏になると時々思い出す記憶。
あぁ、誠也くんと夏祭り行きたいな。
いちご飴とか好きやろな。
頬を赤くして喜んで、美味しそうに食べるんやろな。
俺の頭の中は常に、あの一面赤で埋め尽くされた水槽のように、誠也くんのことばかり。
年上の余裕に、色気に、まんまと惑わされ夢中になった2年前の夏。
色んな人の腕のなかに居たのにね。
もうどっか泳いで行かんといてね。
「やっと捕まえた」
今はもう、俺の腕のなか。
end.











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。