先輩達と談笑をしていると、ふと気になったことがある。
『あの…他にも1年生って入るんですか?』
私の問いに、1番に反応したのは田中先輩だった。
「あー、そういや、まだお前らしか来てねぇなあ。」
まさかこのまま3人しか入部希望来ないなんてこと無いですよね!?、なんて叫びながら菅原先輩にしがみついている。
「いやいや、まだ入学初日だし…なぁ?」
「え、あ、まぁこれからだよな!…な?」
「そ、そうそう!…きっと。」
皆さん目が泳いでらっしゃいますよ。
どれだけ自信ないんだ。
そこまで不安がられると、こっちが心配になる。
その光景を見ていた澤村先輩が、溜息と共にようやく口を開いた。
「心配すんな。あと2人分の入部届けを預かってる。」
2年生の先輩方の表情が一気に和らいだ。
あの2人だけじゃ心配しかないし、他にもいると聞いて私まで安心した。
「さ、準備するぞ。5分後にウォーミングアップな。」
澤村先輩の掛け声に皆さんが答え、私は潔子先輩に呼ばれた。
「今日は見学してて。私の動きとか部活の流れとかを見ていて。あ、そこの椅子使っていいからね。」
そう言って体育館から出ていった潔子先輩はとってもとっても美しかった。
しばらく経ってから潔子先輩が青いバッグを肩にかけて戻ってきた。
田中先輩が駆け寄っていった。
皆さんが気に留めないということはこれは日常なのか。
田中先輩を華麗にスルーして潔子先輩がこちらに向かってきた。
「ねえ、外にオレンジ色の髪の子と黒髪の子が立っていたけど、最初に言ってた人達?」
部活動禁止になって、体育館前で屯している彼らの事だろう。
『そうです!ご迷惑とか掛けてないですか?』
「ええ。ただ見られただけ。」
あいつ、美人に弱いからな。
現金な奴め。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!