【シーン3】
次のシーンはなーくんとの食事。
真っ黒なスーツに紫色のネクタイ。
同じく紫色の宝石が埋められたタイピン。
紫がかった髪をかきあげる姿は、どこか色気が漂っている。
そして、真っ白なテーブルクロスの上に並べられたのは高級そうな料理。
機材が準備されている間に、向かいに座ったなーくんにこそこそと尋ねる。
夢じゃないんだよね?
目の前にいるのは、正真正銘なーくんなんだよね?
嬉しくて嬉しくて、メイクしたばかりにも関わらず涙が出そうになる。
優しく笑い、私に向かって手を伸ばされる。
そして、なーくんの手がそっと涙を拭う。
びっくりして、涙が引っ込む。
思考停止。え?……え!?
今……!!!
みんなが集まってきて、口々に喋る。
るぅとくんと莉犬くんにいたっては、後ろから私に抱きついてる。
守ってくれてる……ってことかな?
スタッフさんに声をかけられ、みんなが散っていく。
心做しか、スタッフさんの顔つきが微笑ましそうで更に恥ずかしくなる。
カメラが回ると、私となーくんの食器の音だけがカチャカチャと鳴る。
撮影は手元だけだけど、緊張で手が震える。
自分に言い聞かせてゆっくり呼吸をするけど、私の一挙手一投足をみんなに見られていると思うと震えが収まらない。
正しい作法も分からないのに、いきなりコース料理なんて食べるもんじゃない。
ふと、聞き逃してしまいそうなほどに小さな声が私を呼んでいるのに気づく。
……本当は緊張で味なんて分かんないけど。
いきなりの告白に、思わず食べる手が止まる。
照れたような笑みを浮かべるなーくんに、心臓が跳ねる。
言ってしまってから、とっさに口から出た、つまらない返答に後悔する。
でも、なーくんが嬉しそうに笑ってくれるから"まぁ、いいか"なんて安心してしまう。
気づけば、手の震えは止まっていた。
なーくんは気づいてて話しかけてくれたのかな、なんて自惚れてしまう。
今だけ自意識過剰も悪くない、よね。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!