第10話

理想のお姫様③
835
2020/12/03 14:04
【シーン3】
 次のシーンはなーくんとの食事。
ななもり。くん
ななもり。くん
いつも通り、美味しく食べてくれればいいからね
あなた
あなた
はい!
 真っ黒なスーツに紫色のネクタイ。
同じく紫色の宝石が埋められたタイピン。
 紫がかった髪をかきあげる姿は、どこか色気が漂っている。
 そして、真っ白なテーブルクロスの上に並べられたのは高級そうな料理。
あなた
あなた
なーくん、本当にこんなにいっぱいご馳走になっていいの…?
 機材が準備されている間に、向かいに座ったなーくんにこそこそと尋ねる。
ななもり。くん
ななもり。くん
もちろん。
MVのお礼も兼ねてるから
あなた
あなた
いやいや!
こっちが出させてくれてありがとうだよ。
私がすとぷりのMVに出るなんて夢にも思ってなかったし……
 夢じゃないんだよね?
 目の前にいるのは、正真正銘なーくんなんだよね?
 嬉しくて嬉しくて、メイクしたばかりにも関わらず涙が出そうになる。
ななもり。くん
ななもり。くん
俺らの妹になってくれてありがとう
 優しく笑い、私に向かって手を伸ばされる。
 そして、なーくんの手がそっと涙を拭う。
あなた
あなた
……っ
 びっくりして、涙が引っ込む。
 思考停止。え?……え!?
 今……!!!
ななもり。くん
ななもり。くん
ふふっ。あなた真っ赤だよ?
さとみくん
さとみくん
百面相してどうした?w
ジェルくん
ジェルくん
照れてるん?可愛ええなぁ
莉犬くん
莉犬くん
あ〜、なーくん変なことしたんでしょ!
るぅとくん
るぅとくん
僕は、いつだってあなたさんの味方ですからね!!
ころんくん
ころんくん
また赤くなったしw
 みんなが集まってきて、口々に喋る。
 るぅとくんと莉犬くんにいたっては、後ろから私に抱きついてる。
守ってくれてる……ってことかな?
スタッフ
スタッフ
はーい、カメラ回しますよー
 スタッフさんに声をかけられ、みんなが散っていく。
 心做しか、スタッフさんの顔つきが微笑ましそうで更に恥ずかしくなる。
 カメラが回ると、私となーくんの食器の音だけがカチャカチャと鳴る。
撮影は手元だけだけど、緊張で手が震える。
あなた
あなた
(落ち着け……料理に集中すれば……)
 自分に言い聞かせてゆっくり呼吸をするけど、私の一挙手一投足をみんなに見られていると思うと震えが収まらない。
 正しい作法も分からないのに、いきなりコース料理なんて食べるもんじゃない。
ななもり。くん
ななもり。くん
あなたちゃん
 ふと、聞き逃してしまいそうなほどに小さな声が私を呼んでいるのに気づく。
あなた
あなた
……なーくん
ななもり。くん
ななもり。くん
料理は美味しい?
あなた
あなた
あ、うん。すごく美味しい
 ……本当は緊張で味なんて分かんないけど。
ななもり。くん
ななもり。くん
あのね、俺ずっと妹が欲しかったんだ
 いきなりの告白に、思わず食べる手が止まる。
ななもり。くん
ななもり。くん
男ばっかりの生活だったからさ、妹ができるって聞いた時すっごく嬉しかった!
 照れたような笑みを浮かべるなーくんに、心臓が跳ねる。
あなた
あなた
わ、私も……嬉しい
 言ってしまってから、とっさに口から出た、つまらない返答に後悔する。
 でも、なーくんが嬉しそうに笑ってくれるから"まぁ、いいか"なんて安心してしまう。
 気づけば、手の震えは止まっていた。

なーくんは気づいてて話しかけてくれたのかな、なんて自惚うぬぼれてしまう。
 今だけ自意識過剰も悪くない、よね。

プリ小説オーディオドラマ