第5話

脱出の方法
19
2018/09/16 01:57
「あ、あやかし··?」
あやかし。あやかし。あやかし?
「あやかし。つまりは妖怪。人ではないもの。平たく言えば…化け物、かな」
「ばけ、もの····?」
理解が、追い付かなくて、私は彼の言葉を繰り返した。
「ヒトの子は、ここにいてはいけない。
あの夕日が沈む前に、ここからでなければならない。」
赤々と私たちを照らす夕陽は、すでに沈みかけている。時間は、残りわずか。
「どうやったら、ここから出られるの?」
彼はゆっくり、言葉を選びながら言った。
「君が自身より大切に思っているものを、手離さなければいけない」
「…え?」
私より、大切なもの?
それを、手離す?
「何か思い浮かぶ?大切なもの」
その言葉で、私の頭にある『人』が浮かび上がった。
「…あるみたいだね」
彼は私の表情で、それが私にあることを悟った。
「それを君は、手離せる?」
大切なものと聞いて、なぜその人が浮かび上がったのか、私にはわからなかった。
でも私の口は、私が思考を巡らせるよりも前に、ひとりでに動いた。
「嫌。絶対に、嫌」
凪くんは、私の決意の固さに目を丸くした。
「君の大切なものって、君がそこまで手離したくないものって、一体何?」
さっきは勝手に動いた私の口は、今度は言葉を紡ぐことを拒否した。
私の頭に浮かんだ、私自身より大切なもの。
それは―

凪くんだった。

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